2020年11月3日から5日にかけて、国内における教育イノベーションの加速を推進すべく、世界初のEdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation×Summit 2020 Online」が開催されました。5日には、イトーキ 先端研究統括部 統括部長の大橋一広氏をモデレーターに、セッション「『ネクストノーマル、世界基準のイノベーター人財育成に向けて』〜産官学で取り組むイノベーション・エコシステムへの取組みとは〜」が行われ、産官学の有識者3人が登壇。その再録の後編をお届けします。
西山 崇志 氏
東京大学 経営企画部長
2019年より文部科学省高専教育局企画官として、数理データサイエンスAI教育、オンライン教育、PBL型教育など大学・高等教育のデジタライゼーションを推進。2020年に文部科学省から東京大学へ出向し、大学の戦略的経営のための取り組み等を担当する。
加藤 將倫 氏
株式会社Progate 代表取締役
学生時代、スタートアップに興味を持ち、2014年にオンラインプログラミング学習サービス「Progate」を創業。全世界で180万人のユーザーを獲得する。『Forbes』が発表した「アジアを代表する30歳未満の30人」にも選出。
小林 奈穂 氏
国際大学GLOCOM プラットフォーム研究グループ 主任研究員/研究プロデューサー
ベンチャーから大企業まで、幅広い組織での経験を生かし、個人と組織の創造性に関する研究活動やGLOCOM研究員の産学連携プロジェクトのマネジメントなど、産官学民とともに社会の共通課題を導き、研究する各種活動の企画・プロデュースを行う。
大橋 一広 氏
イトーキ 先端研究統括部 統括部長
人の学際的な交流がイノベーションを起こしていく
大橋一広(以下、大橋)
続きまして、プラットフォーム開発や企業と研究者のマッチング等なさっている小林さんから、取り組みのご紹介をお願いします。
小林奈穂(以下、小林)
GLOCOMの取り組みとしては、イトーキ先端技術研究所さんとの共同研究があります。会議を可視化して円滑に行うためのソリューションを開発しており、私たちは自然言語解析による要素技術の開発を担当しています。また、グーグルさんとの共同プロジェクトとして、2013年からInnovation Nipponという活動をしています。ICTを通じて日本におけるイノベーションを促進することを目的に、例えばフェイクニュースや災害対応など、毎年タイムリーなテーマを企画して共に活動しています。
私個人では、個人が組織社会において創造性をいかに上げていけるか、という研究を行っており、イトーキさんとも共同研究を進めています。そしてもう一つ、六本木会議という取り組みをしています。産官学民から11名の方々に企画委員という形で参画いただき、情報通信政策に関連する様々な勉強会や分科会活動、その成果としての政策社会提言活動などを行っています。私は事務局長を担当していまして、もともとはリアルで集っていろんな議論をしながら政策提言をしていました。今年は六本木会議オンラインということで、勉強会等々を月2回、配信しているところです。
こうした活動において、イノベーションエコシステムをうまく機能させるためには、やはり人の交流が重要だとみています。本当にプリミティブなことではありますが、いかに越境型の方々と触れ合ってコミュニケーションをとっていくか、その中でも自分の考えをしっかりと持って伝えていくことができるか、ということが大事だと思っています。そうした意味でも、大学は皆さんにとっての交流の場になっていくことが求められているんだろうなと日々感じています。
大学が開かれた場所になる
大橋
皆さんの取り組みをお伺いしてきましたが、様々な企業の枠を越えて、コラボレーションやオープンイノベーションという形で学際的な協業をしていきたい、と私自身も思っています。デジタルとリアルがうまくバランスをとって一体化していくことや個別最適化も必要でしょう。そんな場を学際的なマッチングも含めてデザインしていく。それはリアルとデジタル両方の場をデザインしていくことになります。
コロナ禍の今こそ、キャンパスのあり方も変わっていくことでしょう。「リアルタイム配信スタジオ」「(MOOC=Massive Open Online Course)/デジタルコンテンツライブラリー」「産学PBL(Project Based Learning)」「VR・MR・3Dの技術ラボ」「プレゼン&ピッチ」「学際交流」などのリアルとデジタルが融合した新しい学びの「場」として捉え直すことも大きな課題だと考えています。キャンパスがサイバーフィジカルになる中で、大学と企業がどういう形で具体的に取り組んでいけばよいのか、西山さんから実際の取り組みをご紹介していただきます。
西山崇志(以下、西山)
今の大橋さんのお話は、とても共感できる部分があります。加藤さんから、アントレプレナーの話がありましたが、やはりデジタルをやっている人ほど、フィジカルが重要になる場面を知っている。小林さんのお話にもありましたが、大学が開かれた場所になるというのはとても大事なキーワードだと思います。大学の場はアイデアを戦わせたり磨いたりする場所。学生や教員だけじゃなく、民間の方やリタイアした方など、いろいろなステークホルダーが集まって、イノベーションを生む場所だと思うんですね。
そこをどう設計するかは大事なことで、一例としては最近、ダイキン工業・東京大学による産学協創とリカレント教育(プロジェクトベースドラーンニング)の取り組みがあります。これは組織対組織でかなり本格的な連携をしている例でして、これまでの産学連携はどちらかというと一人の教員と企業の研究開発部門の方がそれぞれ連携をしている形が多かったんですけども、最近は様子がかなり違います。東大が持つ学知を最大限に活用して、ダイキン工業さんとどういう社会的課題を解いていくか、というところから一緒に検討することで、企業さんが大学のいろんな先生の研究室を訪問し、ある一つの問いをきちっと作ってそれに必要な技術、アイデア、デザインをかけ合わせていくという取り組みです。まさに大学としてはそういう形であらゆる企業さんと本格的な連携をし、社会に貢献していきたいので、それにフィットしたキャンパスづくりを今後進めていきたいと考えています。
「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」は違う
大橋
最後に皆さんから一言ずつお願いします。
加藤將倫
繰り返しになりますが、大学という場を中心に民間企業がいろんな方面から協力していくというのは大事だと思います。今年はオンライン化が進んだことで、エンジニアであれば海外のカンファレンスなどへの参加のハードルが下がったという流れがあります。カンファレンスに限らず、今後はさらに大学の知が、より幅広い人たちに届いていくとよいのではないでしょうか。
小林奈穂
キャンパスが産学連携の拠点になっていくということは、非常に重要だなと思いました。また、プレゼン&ピッチを実社会で試していけるような場が大学に用意されていくというのは、素晴らしいなと感じました。西山さんからダイキン工業さんと東大によるPBL型教育の話がありましたが、GLOCOMの活動では企業の皆さんと共に、時には学生さんをリサーチアソシエイトのような形でお迎えすることもあるので、まさにそれに近いのかなと思います。
産学連携は大変進みつつありますが、産官学民の連携も非常に重要かと思いました。特に日本では市民の力を発揮する機会や場が少ないことや、市民としての意識も低い傾向にあることが指摘されています。画一的な答えが存在しない現在の世の中で、いかに社会を生き抜くかというサバイバル術としてだけではなく、自らが社会を作る側になるんだという意識を育めるような環境や場所の存在が、重要になってくるのではないでしょうか。
大橋
イトーキは「産」という観点で連携することになりますが、その中でやはり現場実装、社会実装がうまく進んでいくことが、教育イノベーションの大きな目的だと改めて感じるところです。最後に西山さんから、産官学民連携に期待するところについて一言お願いします。
西山
このコロナ禍によって大学は大きく変わっています。冒頭にも言った通り、オンライン授業がこの1、2か月でできたことはそのいい例でしょう。こうやってデジタルがどんどん社会に浸透することで、どこでもいつでも誰でも学べる環境が本格的に到来したと思うんです。
僕は文科省で、大学教育のデジタライゼーションを進めるということをよく言っていました。デジタイゼーションとデジタライゼーションという2つの言葉がありますが、デジタイゼーションは単なるIT化で、例えばテレビでいうとデジタル放送の開始がデジタイゼーション。一方でデジタライゼーションは、デジタル技術を使って新しい価値を生むこと。例えばNetflixのようなストリーミングサービスで、新しいサブスクリプションモデルができるといったことです。ですから教育においてもやはりデジタライゼーション、新しい価値をいかに生むかということがとても大事。デジタル化が進めば進むほど、今のフィジカルな空間がとても重要になっていくので、それをどう設計していくかも肝になります。今日のお話でいただいた意見をさらに大学の現場で生かしていきたいと思いました。
大橋
今日は産官学、横断的にフロントランナーとして活躍されている皆さんの取り組みやご意見をお聞きしました。私たちイトーキはこれまで働くこと、学ぶことのリアルな空間を中心に作ってきましたが、今後はデジタルをいかにリアルな空間に融合していくか。ネクストノーマルにおける教育イノベーションが進む中、新たな空間をどんどんデザインしていきたいですし、皆さんと一緒に産官学での取り組みを進めていきたいと思っています。西山さん、加藤さん、小林さん、どうもありがとうございました。