働き方改革、デジタル・トランスフォーメーション、そしてイノベーション。
複雑化した社会のなかで、様々な企業課題への対応が求められるいま、新しい時代を切り拓くための原動力として、「組織の創造性」を捉え直すときが来ている。
組織の創造性が新たな経営指標となる時代へ
組織の創造性の調査研究・背景と目的
デジタル・テクノロジーの劇的な進歩により、商品やサービスにもとめられる価値は「モノからコト」へシフトするようになった。企業環境が変化する中で、産業競争力を強化するには、価値を創出するための「創造性」が欠かせない。 そして昨今、創造性を発揮するべき対象は、顕在化した課題を解くという創造から、見えない課題の本質を発見し、高度な思考によって新たな価値を創出する創造へと変化している。また、人工知能の登場にもみられるように、機械化や情報化による労働力の代替や効率化は、 加速度的に達成されつつある。人工知能には成しえない人間ならではの能力こそが、 新しい時代に求められる「創造性」であり、今後、企業における経営指標は「効率性」から「創造性」へと変化するだろう。
このような背景認識と仮説から、創造性をこれからの社会の新たな経営指標であると位置づけ、 その開発に向けて「組織の創造性」の実態把握を行った。
創造性の高い組織に共通点はあるのか?
現在の日本企業における、組織の創造性はどのような状況にあるのか。そこで、本研究では、20歳~69歳の就業者1,000名を対象に「仕事における創造性アンケート調査」を実施した。回答データをもとに、計量経済学的な観点からの分析を行ったところ、創造性が高い※1個人やチームには、共通の行動・思考のパターンが存在していることが明らかになった。
次ページからは、分析結果に基づき、取り組みが比較的容易で、効果の期待できるものを取り上げ、「創造性の高い組織が実践する8つの作法」として紹介する。
創造性の評価方法、創造性スコアについて
個人の創造性評価について
本研究では、アンケート調査における「個人の創造性の6つの評価項目」のうち、「仕事において、私は創造性を発揮していると思う」を個人の創造性を測定する指標として用いている。本項目が最も個人の創造性に直接関与する内容であること、実際、他の項目や平均値をとるよりも、数学的モデルの当てはまりが良い結果となったことがその理由である。
チームの創造性評価について
各個人が所属するプロジェクトチームの創造性の評価については、個人の創造性評価の項目をベースに、下段に記す「5項目5段階の自己評価の項目」の設問を設定し、あわせて分析対象としている。
創造性スコア
創造性をより体感的に分かりやすくするために、本記事で紹介する「創造性の高い組織が実践する8つの作法」においては、創造性の5段階評価1ポイントあたりを20点と換算し、100点満点として表現している。
創造性の評価方法
創造性の評価方法については先行研究でも多く議論されているが、確立したものはない。定量的に測るものとして、成果物の評価や成果物数を用いているものもあるが、課題の質に左右されたり、評価者に左右されたり、仮想的な状況をシミュレーションするにとどまっていたりと、どれも研究課題を抱えている。それらを踏まえ、本研究では、Amabileら(1996)によるKEYS※7を参考に、6項目5段階の自己評価で創造性指標を得ることとした。KEYSも「~と思う」という主観的な評価であるという問題は抱えるものの前述した問題は解決している。また、KEYSは企業人の創造性を測るのに多く利用されている指標である。さらに、創造性について「創造性とは、斬新で有益なアイディア・製品・サービス・モデルやプロセスを生み出すことを指します。」とアンケート上に定義を書いていることから、回答者間で認識の相違はない。
個人の創造性の評価項目(6項目5段階評価)
- 項目1=この企業において私が関与している業務は、革新的である
- 項目2=この企業において私が関与している業務は、創造的である
- 項目3=現在の職場環境は、私自身の創造性を高めてくれる場であると感じている
- 項目4=日常業務において、私には創造性が大いに求められている
- 項目5=現在の職場環境は、私のチームの創造性を高めてくれる場であると感じている
- 項目6=仕事において、私は創造性を発揮していると思う
チームの創造性の評価項目(5項目5段階評価)
- 項目1=このチームが関与している業務は、革新的である
- 項目2=このチームが関与している業務は、創造的である
- 項目3=現在の職場環境は、このチームの創造性を高めてくれる場であると感じている
- 項目4=日常業務において、このチームには創造性が大いに求められている
- 項目5=仕事において、このチームは創造性を発揮していると思う
※7 Amabile, T. M., Conti, R., Coon, H., Lazenby, J., & Herron, M. (1996). “Assessing the work environment for creativity”Academy of management journal, 39(5), 1154-1184.
「創造性スコア」の算出に用いたアンケート調査分析および数学的モデルは、山口真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 講師/主任研究員)らと、株式会社イトーキにより設計・構築されたものです。