働き方改革、デジタル・トランスフォーメーション、そしてイノベーション。
複雑化した社会のなかで、様々な企業課題への対応が求められるいま、新しい時代を切り拓くための原動力として、「組織の創造性」を捉え直すときが来ている。
現在の日本企業における、組織の創造性はどのような状況にあるのか、20歳〜69歳の就業者1,000名を対象にした調査研究で、アンケート調査を実施、分析を行い、「創造性の高い組織が実施する8つの作法」としてまとめました。
01:自分から仕事を楽しむ
組織の創造性 調査結果1
仕事の楽しさは、個人の創造性に対して強いプラスの影響を与える。また、仕事に対する姿勢として「自分の才能や能力を発揮するため」と答えた人の方が「お金を得るため」と答えた人に比べて創造性が高い傾向が認められる。個人が内発的動機付けから楽しんで仕事ができるように、組織には適材適所の人材配置や適切な評価制度などが求められる。
様々な局面で「自分から、仕事を楽しむ」姿勢が組織の創造性を向上させる。
本研究のアンケート調査において、「仕事の楽しさ」について、「全く楽しいと感じていない」から「非常に楽しいと感じている」の5段階で回答してもらい、その結果からモデル分析※2を実施。すると、「仕事を楽しいと感じている」ことが非常に強く個人の創造性にプラスの影響を与えることがわかった。具体的には、「全く楽しいと感じていない」人の創造性を基準とした場合、「非常に楽しいと感じている」人の創造性のスコアは、100点満点中32点もプラスになる。すべての回答者の創造性スコアの平均点は66点であることからも、いかに「仕事の楽しさ」が創造性に与える影響が大きいかが理解できる。
※2 モデル分析:回帰分析のことで、数学的モデル(関数)を構築し、分析対象の変数を、他の一つ以上の変数によって説明・予測するための手法
しかしながら、「仕事の楽しさ」について、「非常に楽しい」と回答した人は、全体の6.6%しか存在しておらず、「全く楽しいと感じていない」人も8%にとどまった。つまり、ほとんどの人が仕事を「楽しい」とも「楽しくない」ともいえず、そもそも仕事に対して楽しむという価値観を持っていない状態にあることがみてとれる。したがって、一人ひとりの個人が様々な局面で、「自分から、仕事を楽しむ」のだという価値観をもち、そのような姿勢で仕事に臨むことが、組織の創造性を向上させる第一歩であるといえる。
02:プロジェクト化する
組織の創造性 調査結果2
プロジェクトでの仕事を経験したことがある人は、未経験者に比べて、個人の創造性が高くなっている。一方、プロジェクト経験者においても、実際の業務の中では個人ワークが多く、みんなで考えを広げ・まとめる時間を確保したいという理想とのギャップが認められる。
アンケート調査では、個人の創造性に関する評価を6つの設問に対して回答してもらったところ、すべてにおいて、「プロジェクト経験者」と「プロジェクト未経験者」では大きな差があることがわかった。また、創造性スコア(100点満点)の平均点を比較すると、プロジェクト経験者の方が16点も高い結果となった。いくつか考えられる理由はあるが、おそらくその一つは、プロジェクト型の仕事では、ゴールやタスク、役割がメンバーの一人ひとりに明確にセットされるため、個人の責任感や主体性が強くなることが考えられる。また、ひとりで業務を遂行するよりも、メンバー同士のインタラクションが創造性に寄与することが想定される。
一方で、プロジェクト経験者においても、メンバーが集まって考えを広げる、まとめるといった「みんなで」行う作業時間が、理想に対し、現実は少なすぎるという課題も見えた。上図はプロジェクト経験者について、全体の仕事時間を100としたときの、現実と理想の仕事時間を4つの軸で問うた設問の平均値である。理想と現実を比較すると、ひとりの作業は現実が理想を上回っているのに対し、みんなの作業は理想より少ない。このギャップが大きいと創造性にマイナスの影響があることがモデル分析から分かっており、より「みんなで」行う作業時間を確保することが必要といえる。
03:気軽に、細やかに、コミュニケーションを図る
組織の創造性 調査結果3
フォーマルかプライベートか、対面か非対面かを問わず、すべてのコミュニケーションはチームの創造性を高める。とりわけ、直接顔をあわせて仕事の話をする「フォーマルな対面コミュニケーション」や、チャットやメールでランチの約束をするような「プライベートな非対面コミュニケーション」が大きな効果を持つ。
本研究のアンケート調査では、チーム内におけるフォーマル・プライベート、対面・非対面の各コミュニケーションについて、「全くしていない」~「非常に多くしている」の5段階で回答してもらった。その結果、どのようなコミュニケ―ションでも、コミュニケーションの量がチームの創造性に有意にプラスの影響を与えていることがわかった。とりわけ創造性に大きく寄与しているのが、「フォーマルな対面コミュニケーション」である。モデル分析の結果では、「フォーマルな対面コミュニケーション」を「全くしていない」人を基準とした場合、「非常に多くしている」人はチームの創造性スコアを15.2点も向上させる計算となる。このことから、チームメンバー同士で話す時間を増やすことが、チームの創造性を高めることに繋がるといえる。また、「プライベートでの非対面コミュニケーション」は2番目に大きな影響を与えているのも興味深い。プライベートで対面コミュニケーションをする時間がとれなくとも、オンラインでコミュニケーションするだけで、チームの創造性に寄与するといえる。
04:本来の自分をさらけ出せるような雰囲気をつくる
組織の創造性 調査結果4
不安や恐れを感じることなく、気兼ねなく発言や質問ができる「心理的安全性」は、チームの創造性に強く影響する。特に「安心してリスクをとることができる」「スキルと才能が尊重され役に立っている」という実感が、創造性にプラスの影響を与える。チームメンバーが尊重し合い、何でも論じ合える雰囲気や関係性をつくることが重要となる。
心理理的安全性(psychological safety)とは、ハーバード大学のエドモンドソン氏が提唱したもので、チームメンバーの一人ひとりが、不安や恐れを感じることなく気兼ねなく発言や質問ができ、本来の自分をさらけ だせるような場の状態や雰囲気のことを指す。グーグルの労働変革プロジェクト「Project Aristotle」において、生産性の高いチームの鍵の一つとして導出されたことから話題となった。
チームにおける「心理的安全性」は、チームの創造性に極めて大きなインパクトを与えていた。心理的安全性とは、不安や恐れを感じることなく、気兼ねなく発言や質問ができる状態や雰囲気のことである。アンケート調査では、心理的安全性指標を7段階で評価しており、心理的安全性が最も低い1の場合と最も高い7の場合を比較すると、チームの創造性スコアが約52点も異なる計算となる。特に、「安心してリスクをとることができる」「スキルと才能が尊重され役に立っている」という要素は創造性を高めていた。また、別の質問でチームの状況を取得してモデル分析を行ったところ、「チームメンバー同士は仲が良い」「自分が入手した情報やアイディアを素早くチームメンバーと共有している」「チームメンバーはすぐに有益なフィードバックをしてくれる」「性別に関係なく発言しやすい空気である」の4つが、創造性に有意にプラスの影響を与えていた。これらを意識して、チームメンバー同士を尊重しあい、気軽に何でも論じあう環境や関係性を構築することがチームの創造性を高めることにつながるといえる。
05:コミュニケーションスタイルの違いを活かす
組織の創造性 調査結果5
6つのコミュニケーションスタイルのうち、個人の創造性にプラスの影響を与える「新規性」「支持性」は、女性のコミュニケーションに多く見られ、「実質性」は男性に多くみられる。男女のコミュニケーションの傾向を理解し、メンバーの男女比を考慮したチームビルディングが創造性を高くするといえる。
コミュニケーションスタイルには、「構造性」「実質性」「支持性」「新規性」「好奇心」「議論」の6つがある。アンケート調査において、それぞれを5段階評価した結果から、男女の傾向の違いを見たのが上のレーダーチャートである。男性は「実質性」「議論」、女性は「支持性」「新規性」「好奇心」が高く、会話の「構造性」は男女共にほぼ同じ値であることが分かる。つまり、女性はコミュニケーションにおいて共感と関連する指標が高く会話の幅を広げる傾向がみられる。他方、男性は実質的なコミュニケーションを得意とするといえる。
モデル分析の結果では、コミュニケーションスタイルのうち、「新規性」が最も個人の創造性を高める要素であり、続いて「実質性」「支持性」であることがわかった。その一方で、残りの「構造性」「好奇心」「議論」の3つは、創造性への有意な影響が見られなかった。男性に多く見られる「実質性」の高いコミュニケーションと、女性に多く見られる「支持性」「新規性」の高いコミュニケーションが組み合わさることで、より創造性が発揮されるといえる。創造性を高めるには、男女を問わず、コミュニケーションスタイルの違いを理解して協働していくことが必要だといえる。
06:リーダー自らが高い目標に取り組む
組織の創造性 調査結果6
強制型のリーダーは、チームの創造性を最も低くする。一方で、ペースセッター型、ビジョン型のリーダーは、創造性を高くする。高い目標のもとで、リーダーが手本となることで、メンバーそれぞれの創造性の発揮にもつながりやすい。
本研究におけるアンケート調査の分析では、リーダーショップのタイプが、「ペースセッター型(難度が高い目標のもと、リーダー自身が手本となる)」と「ビジョン型(メンバーそれぞれが自主性を持つ)」の場合、特に創造性スコアが高くなった。高い目標設定をしてリーダー自身が手本となったり、メンバーそれぞれが自主性をもったりすることは、チームの創造性の発揮につながる。一方で、自らのチームのリーダーシップタイプを「強制型」と答えたチームの創造性スコアは、最も低い。「強制型」を0とした場合、そのほかのリーダーシップタイプをとっているチームの創造性スコアが10点〜16点有意に高くなるという結果となった。このことから、高い創造性が求められるチームにおいては、リーダーのみに権限が集中するようなチーム運営は避ける方がよいといえよう。また、このような場合はチームメンバーがリーダーに意見を具申するのも困難と考えられるため、経営者がメスを入れるような仕組み・工夫も必要になるだろう。
07:快適で機能的な空間で働く
組織の創造性 調査結果7
オフィスの機能性と快適性についての満足度が高いと回答した人ほど、所属するチームの創造性スコアが高くなる。その理由には、オフィス内でのコミュニケーションや必要な情報源へのアクセスのしやすさなどが考えられる。オフィス環境ごとに要因は異なるため、何が機能性・快適性に寄与しているかを具体的に調査し、必要な対策を導出することが求められる。
本研究では、創造性とオフィス空間の関係について調べるために、オフィスの総合的な満足度に寄与していることが知られている「機能性」と「快適性」に着目し、その状況についてアンケート調査を行った。上図は今回実施のアンケート回答者が、現在のオフィスの機能性・快適性を5段階で評価した結果と、自身が所属するチームの創造性スコア(100点満点)とのクロス集計である。その結果、快適性・機能性の評価が高いオフィスに在籍する人ほど創造性スコアも高い傾向が得られた。オフィス空間の機能性・快適性と創造性の明らかな相関関係がみられる要因には、オフィス空間がチーム内のコミュニケーションや内的なモチベーションに寄与するためとも考えられる。したがって、個人のモチベーションを高め、多様な人との交流を促す空間作りをすることが、創造的な組織を生み出すためますます重要になっていくものと期待される。
08:ビジョンを語り、すり合わせる
組織の創造性 調査結果8
企業のビジョンに対して「共感・同意」している個人やチームほど創造性が高くなる。また、たとえ個人単位で異なるビジョンを持っていても、組織やチーム内で徹底してすり合わせを行うことで、十分に創造性を発揮できることも明らかになった。
個人の創造性に関するモデル分析では、企業のビジョンに対して「意識することはない・知らない」と回答した人に比べ、その他の姿勢や態度をもつ人の方が創造性が有意に高いという結果となった。特に高くなるのは「共感・同意している」場合であり、「意識することはない・知らない」場合に比べ、創造性スコアがおよそ14点ほど高くなる。つまり、経営者が企業の創造性を向上させるには、多くの社員が共感できる企業理念・ビジョンを作ると同時に、それを社員に周知し、常に社員が意識するような状況にすることが効果的といえる。
チームの創造性に関するモデル分析でも、企業のビジョンに対する姿勢について「この中にはない・わからない」と回答したチームに比べ、「チームメンバーが異なるビジョンや姿勢を持っておりバラつきがある」を除く、その他のチームの方が、創造性が有意に高いという結果になった。特に高くなるのが「チームメンバー全員が共感している」場合であり、「この中にはない・わからない」場合に比べて創造性スコアがおよそ10点ほど高くなる結果となった。ただし、「各メンバーが異なるビジョンを持っているが対話とすり合わせをしている」場合でも創造性は比較的高かったことから、各々が別のビジョンを持っていても、チーム内で徹底的に対話とすり合わせをすれば、十分な創造性を発揮できるといえる。