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テクノロジーは人間の価値観を揺るがし、アートを変えていく。スタートバーン・施井泰平氏が語るアートとテクノロジーの融合

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ブロックチェーンを活用し、アートの流通や評価のインフラとなる「Startrail(スタートレイル)」を構築しているStartbahn(以下、スタートバーン)。その創業者で現代美術家でもある施井泰平(しい・たいへい)氏の前後編にわたるインタビュー。後編では、施井氏が考えるアートとテクノロジーの融合、その哲学について聞いた。

生成AIやXRの進化は、人間の死生観までも変える

――施井さんはアートをどのようなものだと考えていますか。その哲学について教えてください。 

施井泰平(以下、施井) 今はアートとそうではないものの違いが、ほとんどわからなくなってきている時代だと思います。例えば、美術館で長編の映像作品を展示していることがありますが、それと映画とは何が違うのか。アートの大きな要素となっているのは、時代を超越することを前提として作られている、あるいは時代を経ていくものを評価するという仕組みです。

一般的に映画は、観客が少なければすぐに公開打ち切りになりますが、映画市場の原理ではそういった判断がなされる。しかし美術館で展示されている映像作品は、今すぐたくさんの人に観られなくても美術館にあり続けます。なぜなら美術館はその瞬間、人気になるものを展示するのではなく、時代を経て社会にとって有益なものをアーカイブしていくことを目指しているからです。どうやって保存し価値化していくか、そのプロセスの部分が「アート」であると思っています。両者はどちらが優、どちらが劣ということではなく、特性の違いにすぎません。

――アートはテクノロジーに影響されると思いますか。逆にテクノロジーの中から生まれる表現はありますか。

施井 そうですね。活版印刷ができたことでルネサンスが生まれたと言われていますし、写真技術によって近代芸術が始まっています。技術は価値観の根底を揺らがせることで、これまでにない創作物が生まれるきっかけを作ってきました。今でいうと、生成AIやXR(VR、AR、MR)などのテクノロジーですね。これらが進化していくことで、例えば将来、死生観が大きく変わる可能性があります。なぜなら「死んだらもう話せない」から、AIによって「死んでも永久に話せる」ようになることで、「自分以外の人は死なない」という状態になるからです。今まで人が死ぬ映画は悲しかったけれど、未来においては古臭く感じるかもしれないとなると、これからのクリエイティブにも大きな影響をもたらすでしょう。

画材を自在に扱うように、テクノロジーを扱わなければならない

――施井さんにとって、そもそもアートとテクノロジーを繋げるきっかけはなんだったのでしょうか。 

施井 多摩美術大学時代は油絵を専攻していて、テクノロジーは全く興味がない分野でした。当時、志していたのは時代を象徴する作品を残すアーティスト。そのためには今の時代を理解すべきだと考え、大学を出てからプログラミングを勉強しました。慣れないプログラミングに苦労しましたが、絵の具や筆をコントロールしていたように、テクノロジーも自在に扱えるようにならなければと考えていました。

――文部科学省が開始した「GIGAスクール構想」のもと、児童や生徒へ1人1台の端末や通信環境の整備が進んでいますが、まさに文房具と同じようにテクノロジーを使うことが、これからの時代に求められるのかもしれません。 

施井 教育のDXとアートのDXは似ているように思います。アートのDXが究極的に行き着くのは、個人の営み全てに価値があるというところです。例えば、美大卒業後に優れた作品を生み出して、有名なギャラリーによってアーカイブされたとしても、それ以前のクリエイティブは残っていないのが普通です。現状では、誰かがデジタル化していないものは後世に残らず、存在しないのと同じことになってしまいます。
どんなにテクノロジーが進んでも、時代を遡って記録することはできません。でもDXによって今、価値化されていなくても、将来価値化される可能性があることを前提に、その人の営み全てを記録していくことができる。教育もDXによって学習ログを蓄積することができ、将来そのログを分析して、その人の特性や才能を生かすことができるかもしれない。その点においてもアートと教育は似ていますし、DXの必要性を感じています。

- イトーキ小澤 コメント -

ブロックチェーン技術が「価値の継承」において重要な役割を果たしていることを実感するとともに、スタートバーンさんがその世界を目指されていることを改めて強く感じました。

アートのDXと教育DXの類似について述べられているように、自分にとっては当たり前であり、通過点でしかない学習した知識やスキルが、未来の自分の価値を高める鍵となります。正しく活用すれば、ブロックチェーン技術をスキルの証明にも適用でき、信頼性のある履歴を構築できると考えられます。
大学などでも、学生が在学中に身に付けた力を成果物だけではなくその活動の履歴も含めて信頼できる形で証明することで、説明や証明が難しかった“努力“を、武器として活用できることでしょう。

イトーキでは、ITOKI Smart Campus Solutionのもと、学びの場の変革や学びの新たな企画創出と基盤づくりを推進しており、学ぶ方の社会的使命の発見や自己肯定感の獲得を目指しています。その中心にいるのは学ぶ人です。学ぶという場や空間の変革だけでなく、学び方の変革も含めた新たな可能性を探求し、提案していきたいと思います。

スタートバーン株式会社

世界中のアーティストとアートに関わる全ての人が必要とする技術を提供し、より豊かな社会の実現を目指す会社として、ブロックチェーンやNFTの技術を活用し、アート作品の信頼性や真正性の担保および長期的な価値継承を支えるインフラ「Startrail」を構築。アーティストやギャラリー、アートコレクターやオークションハウスなどのアート関連事業者はもちろん、IPコンテンツを取り扱う事業者にも活用されている。2022年、アーティストやイベント主催者、店舗や施設などさまざまな事業者がNFTを作成し、来場者がQRコードを通じて手軽にNFTを取得できるWebアプリ「FUN FAN NFT」をリリース。

施井泰平(しい・たいへい)

1977年生まれ。2001年、多摩美術大学絵画科油画専攻を卒業。「インターネットの時代のアート」をテーマに美術制作を開始。06年、アート作品が二次流通した際、作家に還元金が支払われるしくみを発明し日米で特許取得。07年から11年まで東京藝術大学講師。14年、東京大学大学院在学中にスタートバーン株式会社を起業。美術家として活動する際の名義は泰平。Geisai#9 安藤忠雄賞、ホルベインスカラシップ奨学生など受賞歴多数。主な著書に平凡社新書『新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか』などがある。

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