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ビジネスの現場で成果を生み出せる人材の育成
ロジカル、クリティカル、クリエイティブを育む新スマートライブラリーの挑戦 -サレジアン国際学園世田谷中学高等学校の取り組み(後編)

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「21世紀に活躍するための世界市民力の育成」を教育目標に掲げるサレジアン国際学園世田谷中学高等学校。同校では、生徒が主体となる問題解決型学習を取り入れており、2024年夏、その教育の一環として図書館を改装した。新たに生まれ変わった図書館「LIBERA」のねらいについて、大橋清貫学園長と教務部長の田中赳裕教諭に話を聞いた。

心理的安全性が生む健全な衝突

PBL型授業を導入しているサレジアン国際学園世田谷中学高等学校。PBL型授業(Problem Based Learning=問題解決型の学習法)を受けるのが初めての中学1年生でも、1学期が終わる頃には、この授業スタイルに慣れていくという。

授業の一例を紹介しよう。中学2年生の国語の授業では、太宰治の『走れメロス』を読み、正義について考える課題が行われた。まず自分たちで調べ、正義には「法的な正義」と「道徳的な正義」があることを知り、それはどのようなことであるか定義して、主人公の行動を分析していく。そして、最終的には自分たちが考えた正義に当てはまるのかどうかを考え、この作品が正義について述べた作品であるかどうか、また、そのように考えた理由をプレゼンで発表した。

実際の授業で行った代表プレゼンテーション

教務部長 田中赳裕教諭(以下、田中)「大人でも舌を巻くような発表をしたグループがあり、それを見た生徒たちが『こんな考え方もあるのか』と刺激を受ける。こういった相乗効果が、全体のレベルアップにつながっていると感じます」

保護者も、我が子の変化を感じている。「話している内容が論理的になり、親に論戦を挑んでくることもある」「小学校時代はクラスの中でも目立たない子だったのに、学園祭で堂々とプレゼンしている姿を見て驚いた」という声が保護者から聞かれているという。

プレゼンテーションやファシリテーションなどで生徒がスキルを上げていく土壌づくりのために、同校が大切にしていることがある。それは、「共感や心理的安全性を確保すること」だ。

田中「たとえば自分の意見を述べたときに、『その意見はどうなの?』という空気感になると、発言した生徒は委縮してしまうし、聞いている生徒もそれ以上思考が深まらない。そのため、異なる考え方を互いに受容し、かといって馴れ合いではない意見交換をする、いわば『健全な衝突』ができる雰囲気をつくることが重要なのです」

価値観が多様化するなかで、今後求められる教育とはどのようなものだろうか

大橋清貫学園長(以下、大橋)「かつては、『この道をその通り歩めば間違いない』というモデルコースがありましたが、今は違います。保護者の方の認識も大きく変化しており、『〇〇大学を出ておけば安心』というのではなく、『社会で活躍するために必要な能力を養いたい』と考えていらっしゃる方が多い。時代が求めるスペックを私たちは『社会人基礎力』と呼んでいますが、この力は、従来は高等教育や社会に出てから身につけるものでした。しかし、今は中等教育の間にこの基盤をしっかり作ることが重要だと考えています」

とはいえ私立高校となると、どうしても大学の進学実績をアピールする必要があるのではないか。そう水を向けると「本校ではそこを意識していない」と大橋学園長は明確に答えた。この数年間PBL型授業を続けてきた結果、「社会人基礎力」を身につければ進路実績は自然についてくるものだと確信しているのだという。

大橋「定期テストでも論述を重視しており、ロジカルシンキングや表現力を鍛えているので、本校の生徒は小論文に強いのが特長です。穴埋め問題が得意でも、『〇〇について論ぜよ』と白紙を渡されると途端に手が動かなくなる子がいますよね。ところが、本校の生徒は『待ってました!』とばかりに白紙に自分の考えを書き始める。それは、日頃の教育の成果だと感じています。PBL型学習は総合型選抜の入試と相性が良い。近年では、総合型選抜を採用する大学が増えており、それは本校にとって追い風になっています」

PBL型学習を行うには、まず教師がロジカルでなければならない

同校では、1956年にアメリカの心理学者ベンジャミン・ブルームらが提唱した教育目標の分類学である「ブルーム・タキソノミー」※1の改訂版をもとに、教育プログラムの開発を行っている。「知識のレベル」と「思考の深さ」の二軸においてどの段階に位置するのかを測る指標で、点数や偏差値に変わる新たな学力の基準としてあらためて注目を集めている。

大橋「本校では、中学生の段階から教科書的な知識にとどまらず、大学の学部レベルの領域の学習をしています。『何年生だからこのレベル』という枠を取り払い、学びをどんどん深めていくのが本校の方針です。さらに中学生でもゼミを行っており、高等教育と同等レベルの学びを体験できます。中学・高校においてコンピテンシー※2を育てることを意識している数少ない学校といえるでしょう」

もちろん教諭陣も常に研鑽を積んでいる。「PBL型学習を行うには、まず教師がロジカルでなければならない」という大橋学園長の方針のもと、教諭陣は現代のビジネススタンダーを学び、ロジカルシンキング研修を受け、「ブルーム・タキソノミー」理解を深めているという。 

田中「こうして学んだことをどのように教育現場に落とし込むのか、教員同士で話し合うために、多いときは月に1回研修を開催しています。その他にも、職員室での日常の会話の中で『この方法は生徒の反応が良かった』などと情報共有を図っています」

さらに年に1度、教諭らは自分たちの教育について論文を書き、研究成果を授業に還元している。「中学、高校でここまで取り組んでいる学校は他にない」と大橋学園長は胸を張る。

同校では、2026年度より、医学とデータサイエンスをメインに据えた新プログラムを開始する予定だ。学校が一丸となって常に教育のあり方をアップデートし、世界市民として活躍する生徒を送り出すための土壌を耕し続けている。

※1ブルーム・タキソノミーは、教育目標を階層的に整理した分類法で、1956年にベンジャミン・ブルームらによって提唱された。改訂版は、より現代的な教育アプローチに適応した。

※2単に知識やスキルの習得にとどまらず、不確実な状況における複雑な状況に対応するための知識、スキル、態度・価値の活用を含む概念

       

-イトーキ磯部コメント-

イトーキでは、スマートキャンパスコンセプトのもと、教育空間をカリキュラムの視点から考え、その実践に適した環境を整えるご提案をさせていただいております。 
今回のサレジアン国際学園世田谷中学高等学校様の図書館改修において、学校様が大切にされている「生徒のプレゼンテーションスキル向上」という視点が、私たちの考えるスマートキャンパスコンセプトと重なり、ご一緒に空間づくりを進めさせていただくことができました。

完成した図書館が、コンピテンシーを育む学びの場としてさらに活用されることを願っております。引き続き、授業カリキュラムの活用方法についてもご相談させていただきながら、図書館を起点とした次世代カリキュラムの可能性をご一緒させていただけますと幸いです。

教務部長 田中赳裕教諭(左)/学園長 大橋清貫氏(右)
プロフィール 

大橋清貫(おおはし・きよみち)

学校法人星美学園 サレジアン国際学園世田谷中学高等学校 学園長。 
広尾学園中学・高等学校、三田国際学園中学・高等学校をはじめ、数々の学校で改革を行う。 
2023年6月から現職 

田中赳裕(たなか・たけひろ) 

学校法人星美学園 サレジアン国際学園世田谷中学高等学校 教務部長

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