イトーキは、静岡県の静岡聖光学院中学校・高等学校とともに、メタバース技術を活用した新しい教育スタイルをテーマに次世代の学びの場の研究を行っている。前回の記事では、文化祭でのメタバースを活用した展示に向け、静岡聖光学院×イトーキの学習の過程をまとめた。本稿では、文化祭当日に加え、後日開催された学内イベントの様子と、そこから得られた知見に関して、研究プロジェクトのリーダーを務めるDX推進本部デジタル技術研究所の小澤照が報告する。
生徒が深く興味関心を持った分野で自由に研究活動を行う「自然科学部」という部活では、有志の生徒10名が十人十色の興味関心ごとに対して純粋に疑問に向き合い、研究を行ってきました。
研究結果を発表する際の手段として、従来は模造紙にまとめたり、パソコンやタブレットで作成したデジタルの資料をディスプレイに投影する方法がありました。模造紙やデジタルの資料での発表も、情報を整理し俯瞰できる形にまとめるといった意味では有効な手段です。しかし、生徒の主体性を重視し個性を生かした活動に繋げるためには、テンプレートが存在しない自由なキャンパスでのびのびと活動できるメタバースに、大きな可能性があると言えます。特に、生徒の興味と自主性を育む自然科学部では、0から空間を作れる環境が最も必要であると考えました。
今回活動に参加した10名の有志生徒は、8チームに分かれてApple Pencilを対象としたデジタルツールの身体性の検証や、ドローンの形状比較、ミニ四駆の設計検証、ボードゲームの新たなルールの検討などをテーマに研究を進め、それぞれ研究結果をメタバース空間内で表現しました。
以下は、それぞれの生徒の研究テーマと、生徒が作成した空間になります。生徒のテーマごとに、それぞれ0から空間作りに挑戦してもらいました。空間作りから発表方法を考えることで、普段教室内に持ち込めないものを持ち込み迫力のある展示にしたり、ドローンレースの会場を再現して発表空間自体を楽しんでもらえるなど、工夫を凝らしました。
テーマ | 内容 |
iPadを触った時のApple pencilと手の違い | iPadを使用し、手とApple pencilの書き心地や操作性の違いをまとめ、その結果を展示する。 |
なぜドローンの主流はクワッドエックス型なのか | 様々な種類のドローンの形状について調べ、その結果を展示する。 |
ミニ四駆のリアウィングに効果はあるのか | ミニ四駆に装備されているリアウィングの効果を、実際のコースを走らせて検証し、その結果を展示する。 |
ボードゲームのルールを変えるとゲーム自体の面白さは変わるのか | 「タイニータウン」というボードゲームのルールを変更し、ゲームの面白さがどのように変わるのかを調べ、その結果を展示する。 |
「制作アプリ」はどのようにして作られているのか | ゲーム制作アプリが作られる工程を調べ、その結果を展示する。 |
ミニ四駆でよく使われるタイヤの比較 | ミニ四駆に様々な種類のタイヤを装着し、それぞれタイムの違いを検証し、その結果を展示する。 |
ドローンの騒音の様々な対処法 | ドローンの騒音の発生理由と抑制する方法を調べ、その結果を展示する。 |
メタバース空間を活用したHPの作成 | 自然科学部のゼミの活動や、他のメンバーが作成したメタバース空間を効果的に表現する新しいHPを作成する。 |
2022年10月1日・2日に開催された文化祭当日は、来場者にまずPCでメタバース空間に入り8つあるテーマの中からVRゴーグルで体験するテーマを選んでもらいました。その後、教室内に3台設置してあるVRゴーグルで順番に没入体験をしてもらいました。VRゴーグルを装着して体験する際は、隣に説明員を担当する生徒が立ち、操作や研究内容に関して説明を行い、来場者の体験をサポートしました。
2日間の文化祭で、400人近い方に研究発表会の会場に足を運んでいただき、VRゴーグルを用いた没入型の発表を体験してもらいました。非常に大盛況となり、常に順番待ちの状態であったため、学外の方の体験を優先し、残念ながら生徒の体験は十分に行えませんでした。
そのため、10月25日・26日の2日間で、学内向けイベントを実施することとしました。
以下は、そのイベントの様子です。
これまでのように資料をベースに自分のペースでプレゼンをする伝え方とは異なり、相手のペースにあわせて質問に答えながら空間の案内役となるコミュニケーションは、生徒の皆さんにとって、非常に良い経験になったと思います。また、案内する空間も用意されたものでなく自分たちでゼロから創り上げるため、展示や案内にマニュアルやフォーマットはなく、どのようにすれば発表の内容を効果的に伝えることができるのか自ら考えて行動することができたと思います。
今回のイベントを振り返ると、90%以上の来場者にアンケートで「ポスターなどの展示と比較して生徒の思いが伝わった」「今後もこのような展示があれば体験したい」との回答を得ることができました。研究活動に参加してくれた10名の有志生徒は、今回の研究発表会を通じて、日ごろ行っている模造紙やタブレットでのまとめ作業と比較して、「作業に要する時間は長く大変だったが、大変だった半面、自分のやりたいことをイメージ通りに実現でき、モチベーションも高く楽しく活動できた」と話してくれました。初めてのメタバースの活用ということもあり、学習活動に対する負荷は通常と比較し高かったのに対して、前向きに活動をし続けることができたという結果は、メタバースが学習効果の高い学習コンテンツであることを証明していると捉えています。
今回は、研究成果を発表するツールの1つとしてメタバースを活用しました。次回はメタバース上でのコミュニケーションを主軸とした協調学習での学習効果についても、研究を行う予定です。
メタバースを活用したコミュニケーション力の醸成をテーマに、次回は第3弾のレポートをお届けします。どうぞご期待ください。
静岡聖光学院高等学校の生徒たち×ITOKIのプロジェクトの様子は、こちらのサイトでもご覧いただけます。
聖光見聞録~学校ブログ~ ITOKIさんとのVRレッスン【聖光見聞録1161】
https://kenbunroku.s-seiko.ed.jp/1161-
聖光見聞録~学校ブログ~ VRプロジェクトレッスン第2弾【聖光見聞録1164】
https://kenbunroku.s-seiko.ed.jp/1164-
静岡聖光学院中学校・高等学校
http://www.s-seiko.ed.jp/