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国立大学初のCDOが牽引する、東北大学のアジャイルなDX経営

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2020年6月、コロナ禍のさなか、全国の大学に先駆けて「オンライン事務化宣言」を発表した東北大学。国立大学で初めてCDO(最高デジタル責任者)を置き、学内でプロジェクトチームを立ち上げてDXによる業務改革に取り組むなど、日本の大学の中でもDXを先導する存在となっている。その取り組みは、同大学が国際卓越研究大学の第1号に認定される原動力にもなった。DXを「ビジネスモデルの革新」と定義し、CDO・プロボストとして大学変革を推進する青木孝文氏にお話をうかがった。

DXとは「暗闇の象」

――東北大学が取り組んでいるDXの全体像について教えてください。

青木孝文氏(以下、青木) ひと言で言えば全方位です。研究、教育、産学連携、事務のバックオフィスの改革など、すべてと言っていい領域で取り組んでいます。

そのため、DXとひと括りに言っても、学長であれば「経営の見える化」、教員であれば「オンライン授業」、人事部であれば「働き方改革」と、それぞれで課題や取り組みが異なります。言わば、みんなが暗闇の中で大きな象の一部に触れているような状態。だから、なかなか全体像が捉えづらい面があります。

そうしたなかで改めて押さえておかなくてはならないのは、DXはただのデジタル化ではなく、「新しい価値創造モデル」をつくることだということです。大前研一さんが言うように、「デジタル化によるビジネスモデルの革新」がDXの本質です。そして現在は、AIによってその動きが急激になっている。いまやDXではなく、AX (AI Transformation) と言った方がいいかもしれません。

――大学がめざすべき新しいビジネスモデルとは、どんなものでしょうか。

青木 一つの正解があるわけではありません。むしろ重要なのは、各大学が多様なビジネスモデルを追求できる環境を整えることです。例えばアメリカでは、アリゾナ州立大学のように通学する学生が約7万人でオンラインを含めるとその2倍以上の学生がいる大学もあれば、アイビーリーグのように寄付金で経営する大学、コミュニティカレッジのように地域社会に根ざした大学など、まったく違うモデルが存在しています。

ところが日本では、オンライン授業での単位認定に共通の制約があったり、独特の慣例があったり、新しいモデルを試しにくい土壌があります。また、大学では単年度で損益がバランスするという会計基準が一般的で、BSに軸足を置いて事業投資を行う経営が根付いていません。日本的な固定観念にとらわれない改革が必要です。

私が考えるのは、バックオフィスやデータ基盤を大学間で共通化・効率化しつつ、各大学は独自の強みに注力するという形です。例えば、社会起業にフォーカスした大学があってもいいし、ディープテックに特化した大学があってもいい。多様なビジネスモデルを追求できる環境を整えることこそが、大学におけるDXのめざすところだと思います。

スピードを重視したDX推進体制

――そうしたDXを推進するために、東北大学ではどのような体制を整えたのでしょうか。

青木 2020年に私が初代CDOになると同時に、経営層と業務部門とIT部門が協調して進める体制を整えました。そして、学内公募による業務のDX推進プロジェクトチームを立ち上げました。メンバーには通常業務の2割をプロジェクトに割り当て、その成果を人事評価に反映させる仕組みも整えました。そのために事務部門のトップと一体で行動しました。20206月には全国の大学に先駆けて「オンライン事務化宣言」を出し、窓口フリー、印鑑フリー、働き場所フリーといったテーマで業務改革を進めたのです。

その際に重視したのは、何よりもスピード感です。根底にあったのは2011年の東日本大震災の経験です。緊急時にはできるだけ早く動かないと、どんどん状況が悪くなる。多くの教員や職員が迅速な意思決定と実行の重要性を身をもって知っていました。

こうした組織文化は、コロナ禍でも発揮されました。2020年に学生へのワクチン職域接種を実施した際、病院のIT部門が接種券登録システムをわずか3日程度で開発しました。通常、行政がベンダーに発注すれば半年かかり、数千万円規模になるようなシステムを、学内の職員が短期間で作り上げました。この時も「学生にできるだけ早くワクチン接種できるようにしたい」というニーズに、スピード重視で応えたのです。

DX推進プロジェクトチームの取り組みは継続して行われ、2025年度の現在は、テーマごとに自律分散型の小規模プロジェクトとして展開し、より柔軟性と機動性を高めた形で多くの課題に取り組んでいます。

――こうした体制のもとで、どのような成果が生まれていますか。

青木 たとえば、ChatGPT(法人GAI)を全国の大学に先駆けて導入したほか、国立大学で初めて、生成AIによる応対チャットボットも導入しました。AIによる「研究インテグリティ懸念機関チェックシステム」など、研究大学ならではの事例もあります。これは、海外の大学や研究機関の中に、先端的な技術提携に関して、政府が「懸念あり」と判断しているころが存在するため、共同研究などを行う際にAIでチェックできるようにしたものです。

また業務の効率化の面では、年間10万時間を超える業務時間の削減を実現しています。これらは決して一時的な取り組みではなく、震災やコロナ禍で培われたスピードと実行力が、DXによって組織文化として定着した結果だと言えます。

事務職員が開発するBIツールと管理会計

――東北大学は、2024年11月に国際卓越研究大学の第1号に認定されました。この選定の際に、DXの取り組みはどのように評価されたのでしょうか。

青木 特に評価されたのが経営戦略データベースです。これはBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使って、共同研究の額、研究のインパクト、財務状況、国際交流実績など、我々が大事にしているKPIをリアルタイムで可視化する仕組みです。

こうしたシステムをベンダーに発注すると巨大なものになりがちで、予算もかかり、メンテナンスも大変になります。しかし、最近のBIツールはコードを書かなくても使えるので、本学では職員が開発しています。予算をほとんどかけずに、柔軟に改善を続けられることが大きなメリットです。

この経営戦略データベースの背景にあるのが、管理会計のしくみです。実は本学では以前から、人件費も物件費も、部局ごとにすべてお金で管理しています。

一方、本学ではお金で管理する仕組みを取っているため、各部局に予算を配分し、「その中で人件費・物件費などをやりくりして経営をする」という考えが浸透しています。このような企業では当たり前のことが国立大学ではめずらしいのです。こうした仕組みがあるからこそ、経営戦略と財務を結びつけて、「こういう施策に投資したらこういう成果が出た」という管理会計が成り立つのです。

――管理会計による財務戦略と、それを「見える化」するDXの取り組みが、国際卓越研究大学の認定に寄与したわけですね。

青木 その通りです。さらに、国際卓越研究大学に認定されたことで会計基準も変わり、利益を溜めて投資にも取り組めるBS経営が可能になりました。今後はこれらの仕組みを使って、より自律的な大学経営が実現できると考えています。

124大学が参加するアライアンス

――貴学のDXの取り組みは、東北大学内にとどまらず、他大学にも広がっているそうですね。

青木 はい。「コネクテッドユニバーシティ戦略」の中で、全国200弱の大学や研究機関、行政、企業、学生団体など参加するDXのアライアンスを展開しています。

具体的には、DXに関する知識やノウハウを交換するコミュニティサイトを運営し、開発したアプリケーションを多くの大学が共有できるようにしています。もちろん、機密情報や個人情報の管理という点では、内部と外部をしっかり分ける必要がありますが、DX手法やツールは横展開できます。

SNSでも活発なやり取りがなされています。DXに関する情報共有はもちろん、日々の出来事や趣味の話など、DXには直接関係のないやり取りもあって、サークルのような雰囲気があります。こうした関係性が意外に重要なのです。

DXはこれまでのやり方を大きく変える取り組みですから、失敗を恐れず試行錯誤できる関係性が必要です。形式に囚われず、組織の壁を越えて協力し合える雰囲気があるからこそ、課題解決のスピードは驚くほど速くなるのです。

DXの中心課題は、実は技術ではありません。テクノロジーが急速に進化する一方で、個人の意識や事業のやり方、政策や制度がそれに追いついていない。人や組織、制度の問題なのです。だからこそ、組織や制度の改革を大幅に加速させる必要があります。

アジャイルに動き、失敗から学ぶこと。それがDXに取り組むにあたっての重要な戦略だと思います。


青木孝文(あおき・たかふみ)

東北大学 理事・副学長(企画戦略総括)・プロボスト・CDO
東北大学大学院情報科学研究科教授
大学ICT推進協議会(AXIES)会長

1992年、東北大学大学院工学研究科(電子工学専攻)博士課程修了、博士(工学)。2002年より東北大学大学院情報科学研究科教授。専門はコンピュータ工学、デジタル信号処理、画像認識、バイオメトリクスとセキュリティ、法歯学と個人識別など。2006年、総長特任補佐として東日本大震災への対応などに従事。2012年より副学長を併任し、2018年より理事・副学長(企画戦略総括・プロボスト)として国際卓越研究大学への対応などを牽引。2023年より大学ICT推進協議会(AXIES)会長。東日本大震災における身元確認の支援により、社会貢献支援財団社会貢献者表彰(2013年)、河北文化賞(2014年)等を受賞。

イトーキ小笠原コメント
青木先生が先導されるDX推進の取り組みは、研究・教育・事務にとどまらず、学内の組織文化や働き方、さらには学外とのネットワークにまで広がるものであり、単なる技術導入や業務のデジタル化を超えた、多面的かつ総合的な変革である点が非常に印象的でした。
新たな学びの空間づくりに取り組む私たちも、単なる空間の整備にとどまらず、学び方や使われ方を含めた提案を行う機会が増えています。AIの進化によって変化のスピードが一層加速する時代において、完成度を待つのではなく、アジャイルに試行錯誤を重ねながら前に進めていく姿勢の重要性を改めて感じました。

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