NTTドコモの非公認プロジェクトチーム「アグリガール」は、農業分野のICTソリューションの普及を推進する女性部隊。立ち上げて5年で、エリアや支店、部署を超えて、なんと100人以上が参加するチームに成長しています。発起人の大山りかさんに、組織横断型の活動を進めるポイントを伺いました。
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各地の支店でコツコツとスカウト
「アグリガール」は会社非公認の、組織横断型チームだと伺いました。立ち上げた経緯を教えてください。
NTTドコモ(以下ドコモ)の法人営業部でJAグループ担当になったことがきっかけです。法人営業部は企業へのモバイル提案・導入が主な仕事です。他の企業は、本部と契約すれば支店にも契約が広がりますが、JAグループは各地域が独立した組織のため、全国の各支店との協力が必要でした。また、別の部署が牛の分娩や発情を検知するアプリケーションを扱っていたことを知り、各支店と連携してモバイルを活用したサービスを売りにしよう、と。結果、各支店と連携できる農業分野でICTを推進する「農業ICT推進プロジェクトチーム」発足につながりました。当初の担当は、浜森香織さんとの2人チームでした。
法人営業部は男性が多い組織でした。今回は発足メンバーが2人とも女性だったため、「『アグリガール』を名乗ってみちゃう?」「おニャン子クラブみたいに番号つけちゃう?」と盛り上がり、アグリガール001、002と名乗り始めました。ドコモは農業分野に参入したのが遅かったこともあり、各JAさんや農家さんに印象付けたかったという思いもあります。今では、ご当地ガールのように番号と一緒に親しんでもらっています。自己申告型のオープンでフェアな仕組みで、番号も空いていれば好きに付けることができるのがアグリガールです。人事発令もありません。
2014年から15年にかけては、各支店をコツコツ回って農業ICTサービスの普及協力をお願いするとともに、サービスのバリエーションを増やすために「水田センサー」「生産記録ツール」など、利便性が高い商品を開発しているベンチャー企業の人たちに会い続けて協業商材の構築を進めました。
農家さんの反応はいかがでしたか。
男性が多い業界ですから、女性が営業に行くだけで珍しく思われたようで、名刺にある「アグリガール●●番」にも興味をもっていただけました。また、女性は生活密着度が高く、野菜や肉の値段などもよく知っていて、消費者目線を持っているので農家さんと話が合います。そのような小さな共感が積み重なり、農家さんとの距離を縮めていろんな農業に関する知識を教えてもらった結果、アグリガールが農家さんを応援したいという気持ちが伝わり、農業ICTサービス普及につながりました。
このことについて、経営学者の野中郁次郎先生は「アグリガールは相手への共感から入るため、知の共有が加速される」「『人のために役立つ』という共通善を志向するため、多様な当事者を引きつける引力をもつ」と分析なさっています。
苦労はあまりなかった、ということでしょうか……?
いえいえ。実は、お客さんより社内の協力を得るのが大変だったんです。プロジェクト発足時はJAグループや農業、畜産業に関する理解が浅く、「なぜ畜舎の中まで行かなければならないんだ」「牛の出産は24時間対応、夜中に(システムが)障害を起こしたらどうするんだ」……と様々な懸念があがりました。
また全国のアグリガールの所属先はバラバラで、名刺に「アグリガール」と入れられるかどうかは所属長の判断。結成当初は「ダメ」と言われることも多かったですね。でも、農業ICTサービスを提供している協業会社はみな「農家さんを助けたい」という熱い思いをもっていたので、そこに共感して一緒に頑張ろうと思い続けることができました。
勉強会は男女ともに関心のあるテーマを
その後、農業だけでなくIoT全般を手がける「IoTデザインガール」を結成されました。その経緯を教えてください。
初期のメンバーが異動することになったのですが、「アグリガールを続けたい」と言ってくれたんです。農業担当から外れても同じ活動ができないかと考え、担当業界を問わない「IoTデザインガール」が生まれました。総務省のバックアップのもと、様々な企業、自治体、大学などが参加する女性活躍プロジェクトに発展しました。
非公式で、かつ組織横断型のプロジェクトを推進するのは、とても難しいと思います。継続のコツを教えてください。
トップを決めない、ということでしょうか。私はプロジェクトの発起人ですが、取材や講演はこれまで他のアグリガールが対応していました。「皆が活躍しているアグリガール」にしたかったからです。最近は、皆がそれぞれのポジションで際立ってきたので、私もこのような取材のご依頼を受け始めました。
また「女性だから」というテーマは扱わないようにしました。IoTデザインガールは企業横断型の勉強会を開催していますが、よくテーマとされる「子育て」「時間の使い方」などではなく、経済、経営、法学など、男女問わないテーマを扱うほうが、裾野が広がり参加する女性の意欲も向上するように思います。
正当に評価され発揮できる仕組みが必要
今後は組織を横断してつながることが大切だと思いますか? それによって働き方は変わりますか?
役員クラスの方々は理解がありますが、中間管理職クラスはそうでない場合も多い。IoTデザインガールプロジェクトの参加者も、上司から「何に役立つの?」「どのくらい成果が上がるの?」と聞かれます。スタート当初は何度も意義を説明し、参加者を募りましたし、活動するたびに社内説明が必要になる参加者もいました。今は、共創がイノベーションにつながる時代ですが、短期的には効果が見えにくいため、リアリティを感じられないのかもしれません。そこをどのようにすればよいのかを考えています。
例えば、労働時間の8割は会社の仕事を全力で行う。残りの2割は地域や社会に役立つテーマを設定し、ネットワークを広げながら、もちろん会社に利益を還元できる仕事をする。会社は、こんな働き方を提唱してはどうでしょう? アグリガールはこの仕事だけやっているわけではなく、普通の仕事もしていますし、アグリガールをやるために他の仕事も頑張っているようです。また社員も、会社のためにスキルを身に付けるのではなく、習い事と同じ感覚で、自分が学びたいものを学ぶ。働き方改革によって飲みに行く時間が増えるのもいいけれど、リカレント教育、つまりは地域に貢献する、この先も働き続けるためのスキルを身に付けるという道もあると思います。
ワークライフバランスは、ワークとライフを分けていますが、延長にあっていいということですね。
はい。あとは、このような活動が正当に評価されることも必要です。例えば「人脈」は会社にも価値をもたらしますが、検定や資格ではないので評価しづらいですよね。「人脈」を創る上で必要な「共感力」は女性のほうが高いと言われています。それぞれの特性や能力を評価し発揮できる仕組みがあれば、新しい活躍の場が生まれるのではないでしょうか。
私、漫画が好きであらゆるジャンルを読むのですが、チーム創りにイメージするのは少年漫画『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)。一人一人は違う能力をもち、それぞれの目標があるから好き勝手に行動している。でも共通の思いがあるから、結束するとものすごいパワーが出る。あのイメージを仕事においても描いています。
大山さんにとって「働く」とは?
- 大山 りか(おおやま りか)
- 日本電信電話株式会社 研究企画部門 食農プロデュース担当 担当課長 IoTデザインガール
1995年、NTTドコモに入社。2007年から子会社のドコモ・ドットコムに出向、モバイルコンテンツの企画・コンサルティングに携わる。2014年から農業ICTプロジェクトチームの立ち上げを行い「アグリガール」を結成。2016年12月より、農業から分野を超え、部署横断型の「IoTデザインプロジェクト」を開始。2017年7月から総務省「地域IoT官民ネット」の一部として、業界・企業の垣根を越えた「IoTデザインガール」育成プロジェクトに携わる。