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DXは単なる業務改革のためではなく、新しいテクノロジーを社会実装することでイノベーションを起こすためにある。イーグリス・今林広樹氏が語る起業への思い

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「秘密計算」を用いたデータ利活用サービスを提供するEAGLYS(イーグリス)。秘密計算とは、データを暗号化して秘匿したままの状態で、計算やAI解析を行う技術のこと。機密データや個人データのセキュリティとプライバシーは守りつつ、データを連携して活用することができる。同社の創業者で代表取締役社長/CEO(Chief Executive Officer)を務める今林広樹氏は、どのような思いで秘密計算に着目したのか。そして、この技術よって社会はどう変わるのか。創業への思いを中心に語ってもらった。

――今林さんはどのような経緯からこの技術に着目して、起業したのでしょうか。

世の中にあるデータの中には、いわゆる検索エンジンでは検索できない情報、例えば医療や金融などのデータのような「一次情報」があります。これらは非常に重要であり信頼性や価値が高いため、今さまざまな企業が自社の一次情報をDXという文脈の中で掘り起こして活用しようとしています。しかしデータが音声で保存されているなど、そのままでは活用できないケースが多い。活用可能な形にするにはコストがかかるし、形にしたとしても機密情報であるがゆえに、クラウドに保存できずAI解析できないといった課題があります。
各社に散らばったデータを流通させることは、産業を効率・活性化させて、競争の激しいグローバル市場で日本が勝ち抜く唯一の方法につながると思うのですが、データを統合するにもコストがかかる。また、そもそもライバルに塩を送る行為になるのでどの会社も出したがらず、データが集まらないという課題もあります。
これを解決する技術が「秘密計算」です。データを暗号化したまま連携してAI解析できるので、各社が機密・秘匿性の高いデータを流通させることができます。イーグリス では、この技術を用いたAI事業とデータセキュリティ・利活用事業を基軸としています。

――今林さんはどのような経緯からこの技術に着目して、起業したのでしょうか。

幼少期は祖父が会社を経営していたことから、家庭内で経営に関する話題が飛び交う環境で育ちました。人間の脳に興味を持ち、早稲田大学先進理工学部の生命医科学科に進学し、2015年から16年にかけて、シリコンバレーでインターンシップができるプログラムに参加。そこで「ビッグデータ」「機械学習・AI」といったキーワードを耳にしたことで、秘密計算技術と出会いました。帰国後は大学院で秘密計算の研究に没頭。この領域でグローバルに貢献して産業構造を変えるインパクトを起こそうと、在学中の16年に創業しました。

〝共感″ネットワークによって少しずつ広まっていく

 ――グローバルピッチバトル「GET IN THE RING」世界大会の金融・規制産業部門で優勝するなど、国内外のアワードで多数の受賞実績があり、26年には従業員数90人規模を目指しているそうですね。起業後、会社に人を取り込んで大きくしていくにはどういったことを心がけましたか。

最初の1年は一人きりで運営していたので大変でした。そこから徐々に、この技術や世界観に興味を持ってくれた人を仲間として取り込んでいきました。現在、取締役/CSO (Chief Science Officer)を務める丸山祐丞は、秘密計算が世界のインフラとなりうる可能性に興味を持ってもらったところから共同創業者になりましたし、他のメンバーも「世界にインパクトをもたらそう」という志に共感してもらっています。創業期から心がけていることは、まず「あなたは何がしたいのか」と問いかけることです。私は、単なる業務改革のためのDXをしたいのではなく、秘密計算を含めた新しいテクノロジーを社会実装することでイノベーションを起こしたい。この思いにどうやって共感してもらえるかを常に考えてきました。

――新しいテクノロジーを既存社会のインフラにしていくためには、いろんなハードルがあると思いますが、すでにJR東日本や三井物産、大塚化学といった大手企業と協業していますね。どのように実現していったのでしょうか。

特定の手法があるわけではないのですが、10年、20年後の世界について語るようなタイプの方々が当社に興味を持たれる場合が多いですね。そういった方々は会社からも変革を期待されているようで、新規事業部やDX推進部といった部署に所属されています。私が思うに、皆さん独自のコミュニティを持っておられるので、そこからさまざまな方をご紹介いただくことで多くの協業が実現しています。

―――
後編では、秘密計算がもたらす未来像について伺う。

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