
2021年、モチベーション管理システム(SaaS型HR Techサービス)『Attuned』は、「HRテクノロジー大賞」と「日本の人事部 HRアワード2021」で、それぞれ部門優秀賞に輝いた。現在では300社以上が導入し、社内コミュニケーションの改善から、採用や早期離職対策にまで広く活用されている。後半ではそうした『Attuned』の実践例と今後の展望について、EQIQ株式会社の伊藤弘泰取締役にお話しいただいた。
学生の採用活動にも、『Attuned』が効果を発揮!
―企業の現場では、『Attuned』をどのように活用しているのでしょうか。
伊藤弘泰(以下、伊藤) 利用目的はさまざまです。最初にモチベーション・アセスメントを受けると、その人がどのような価値観を大切にしているのかがグラフで示されます。それを元に、自社にどういう人材がいるかを把握し、人材の配置や人事計画に活用したり、Z世代と年配者が混在する組織でコミュニケーションの円滑化を図ったりするわけです。
採用の際に利用している企業も多いと思います。応募者に事前にモチベーション・アセスメントを受けてもらえば、企業は自社に合う人材を見つけやすくなります。就活中の学生も、自分に向いた職場が探しやすくなりますね。
新卒者の早期離職率が改善されたという声は、導入企業のご担当者からよく聞きます。ある企業は社員と就職内定者の両方に『Attuned』のモチベーション・アセスメントを受けてもらい、内定者と似た価値観やモチベーション傾向を持つ社員をメンターとして内定者につけたそうです。すると、内定辞退が50パーセントも下がったと伺いました。モチベーションが似ている者同士で共感や親近感が生まれた結果、職場に対する内定者のエンゲージメントが向上したのでしょう。ほかにも、『Attuned』の活用で職場のコミュニケ―ションが改善して、従業員のエンゲージメントが向上し、3年間で早期離職率がゼロになったという企業もあります。

―ダイバーシティ&インクルージョンについてはどうでしょう?
伊藤 こんなケースがありました。その企業は女性管理職の登用に力を入れているのに、肝心の女性社員たちが管理職になりたがらないというのです。それでモチベーション・アセスメントを行い、女性社員の内発的動機の理解から始めた。それから彼女たちが抱える課題やモチベーションアップに何が必要かなどを、ていねいに話し合いました。すると女性が働きやすい環境づくりが進み、徐々に女性管理職が増えてきたそうです」。
―EQIQでは、『Attuned』のほかにも企業向けに提供しているDXサービスはありますか?
伊藤 日本でも2023年から、人的資本の情報開示※が求められるようになりました。我々はそこに着目し、マネージャークラスの人たちの意識改革にフォーカスした「AI×心理学」に基づく実践的なツールを各種提供しています。これを活用すると、会社のミーティングで部下が十分に発言できているか、上司がしゃべり過ぎていないか、といったことがわかります。上司としてどういう話し方をすれば部下によく伝わり、やる気を引き出せるかを把握できるツールも、オンラインで提供していく予定です。
※人的資本とは、従業員が持つスキルや知識、ノウハウ、資源などを、企業を成長させ、企業価値を向上させるための資本とみなす考え方。2023年3月、上場4000社について、投資家等に向けた人的資本の情報開示が義務化された。対象企業は今後広がる見込み。
教育パッケージや人材関連ビッグデータ分野にも意欲
―社員の意識改革を促すツールの活用は、企業以外にも広がっていきそうですね。
伊藤 『Attuned』などは、大学の先生たちにも使ってもらいたいと思っているんですよ。「この学生の内発的動機はこうだから、 先生はこんな話し方をすれば、勉強や就職活動でやる気を引き出ますよ」というように。学生の内発的動機を理解したうえで、適切な教育を届けることは、それ自体も重要ですが、企業の人的資源の充実にも直結してきます。ですから次は教育パッケージをリリースしようと、試行錯誤しているところです。
―今後の抱負をお聞かせください。
伊藤 やりたいことは三つあります。一つは、AIを使ったコミュニケーションの改善方法をどんどん提案していくこと。 企業はリーダーシップ研修などに投資していますが、アウトプットは恐らく15パーセントくらいでしょう。私たちはインターネットに接続するだけで利用できるコミュニケーション改善用の自走型ツールを、今後もたくさんリリースしていく予定です。
二つめは、先ほどお話しした『Attuned』の教育パッケージをつくること。そして三つめが、人材関連のビッグデータ化です。多くの企業が頭を痛めていることの一つに、「次の幹部候補や社長候補を誰にすべきかわからない」という問題があります。社内における才能の所在がはっきりしないのです。経営幹部の中でも、特に売り上げが高い人、特に優秀な人は、どういう傾向のエンゲージメントを有しているのか。それはKPI(重要業績評価指標)とどう紐づくのか。そういうことを企業が分析するためのサポート体制を整えていきたいと考えています。

―最後に、伊藤さんにとってDXとは何か、お考えをお聞かせください。
伊藤 DXという言葉は、ある意味、定義が曖昧です。でもその中心は「人」です。ITツールをせっせと導入することがDXではありません。働く人のモチベーションや意識を改革していかないと、企業のデジタル・トランスフォメーションは成功しないのです。反対に、人の本質にしっかりアプローチしたDXは、企業文化やビジネスモデルを望ましい方向へと変えていきます。競争上の優位性を確立することも、もちろん期待できます。人々の意識や組織のカルチャーを変え、すばらしい潜在能力を掘り起こす。そういう大きな可能性を、真のDXは秘めていると考えています。
-イトーキ磯部コメント-
現代の働き方へのアプローチ方法は様々ありますが、今回は内発的動機に着目したツール「Attuned」に注目しました。イトーキ スマートキャンパス推進部では、文教市場にフォーカスし学校様と学生の学びに関する共同研究をしています。その中で学生の就職活動をサポートする仕組みに取り組んでいますが、今回のお話いただいた中で、採用段階における企業と学生のマッチング活用は、これからの就職活動の一つの理想的な形であると感じました。
プロフィール
伊藤 弘泰(いとう・ひろやす)
EQIQ株式会社取締役。
デル・テクノロジーズにてオンラインビジネスのリード、TD SYNNEX常務執行役員などを経て現職。
上場企業のアドバイザー、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会理事、岡山大学の非常勤講師としても活躍している。