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武蔵野大学データサイエンス学部×イトーキデジタル技術研究所 学びやプロジェクトを成功へと導く 会議を活性化するための共同研究

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会議の音声や画像を記録、分析し、その結果を「振り返る/評価する」ことで会議を活性化、学びやプロジェクトを成功へと導く――。この共同研究を推進する武蔵野大学の中西崇文准教授と、イトーキの大橋一広統括部長が、研究の現在地と今後の展開を語った。

 <出席者> 

武蔵野大学データサイエンス学部  データサイエンス学科長  
准教授 中西崇文

株式会社イトーキ 
DX推進本部  デジタルソリューション企画統括部
統括部長 大橋一広 

中西崇文准教授は、音楽画像などの異種メディアコンテンツ間を、印象を表す言葉を通じて相互変換する手法や、言葉の意味や響きから曲を生成する「自動作曲システム」など、AIを駆使した「感性メディア変換」というユニークな研究で知られる。また最近では、AIが苦手とする感情や思考の時系列的遷移を「波」としてとらえ、感性を測ることにも取り組んでいる。「あの人とは何となく波長が合う」というような言葉にできない感覚も、これによって分析が可能になるという。 

中西 私はもともと「感性」の研究、特に「テキストマイニング」の研究をしていたのですが、ある時、大橋さんから「会議の記録を取って分析できないか」という提案をいただきました。ビッグデータを使って会議の盛り上がりや、誰と誰の意見が結びついているのか、などを分析して会議の活性化を図り、プロジェクトの成果に結び付けるのが目的ということでした。これは私の研究の延長線上にあるものでしたから、一緒にやりましょうということになったわけです。私がデータサイエンス学部(以下DS学部)の開設に合わせて武蔵野大学に着任する前、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターGLOCOM)に所属しているころでしたね。 

中西崇文氏(武蔵野大学データサイエンス学部准教授)

大橋 中西先生との共同研究「言語情報を対象とした会議の時系列構造分析」の論文は、コンピュータ技術分野学術研究のひとつとして、『Springer2018年版)』に掲載されました。これが先生との共同プロジェクトの出発点です。

武蔵野大学のDS学部は国内では3番目、2019年に開設された。独自に開発した「DSメソッド」によるカリキュラムが特徴で、教師が教壇に立って講義をし、テストによって学生を評価するという従来型の授業はいっさい行われない。学生が主体となってグループワーク(協調学習)を行い、その活動内容を教員が評価するという斬新なスタイルがとられている。 

中西 「DSメソッド」の柱はつあります。つ目は、学生がグループごとに課題を調べ上げ、研究結果をまとめていくグループワーク。つ目が「ミニ卒論」というかたちで1年次から研究・実践を行うプロジェクト型学習(未来創造プロジェクト)。これは企業との共同研究を通じて、学習成果をいかに社会実装していくかを学ぶもので、イトーキさんにも初年度から参加してもらっています。そして三つ目が、国内外で社会実践を行うインターンシップです。したがって、ここでは従来型の授業の代わりに行うグループワークが重要になるわけですが、ここで問題なのは、これまでのグループワークは議事録を取るけれど、誰がどんな発言をしたのか、誰と誰が協調したか、というような詳細まではわからなかったんですね。武蔵野大学では「問い、考動し、カタチにして、見つめ直す」という4つのステップを繰り返し成長していく「響学スパイラル」という新しい学びを掲げていて、我々のグループワークもこれを遵守しているのですが、「見つめ直す」というステップがなかなかやれていなかった。やりっぱなしで、振り返るフェーズがないため、反省や新しいアイデアを次に生かすことができなかったわけです。ですから今回の共同研究はこの「振り返りのツール」として、学生にも教員にも、さらには他の大学や企業にも役に立つのではないかと思っています。 

会議やグループワークの内容を記録、「見える化」して分析し、「振り返る」ことで学びやプロジェクトの活性化を目指す今回の共同研究。では、実際にどのようなツールを用い、どのようなプロセスで行っているのだろうか。 

大橋 コロナ禍でリモートワークが中心になり、ディスプレー、カメラ、マイク、通信のオンライン装置は、会議の必須アイテムになりました。つまりここで採取する音声や画像は、初めからデジタルデータになっているわけです。たとえば音声をマイクで拾い、それをテキスト化し、可視化(グラフ化)する。これによって会議の活性度、つまり会議がうまく進んでいるのか、停滞していないかなどを分析していきます。ひと口に声といっても、声の大きさ、間の取り方、強調の仕方、しゃべり方の癖などいろいろな要素があります。これらは文字だけではわかりにくいのですが、同時にカメラで顔の表情や体のしぐさを撮っているので、意味のあるデータとして分析できるわけです。ですので、こうしたデジタル機器を組み合わせて、会議スペース全体をデジタル化していくわけですね。 

中西 笑う、うなずくなど、小さな身振り手振りも含めて、採れるデータは全部採ります。そこから、誰がどういう言葉を発したのか、時間帯によってどのくらいの語数をしゃべっているのか、雑談かそうでないか、なども可視化して分析していきます。そうやってグループワークに参加している一人ひとりのデータを採っていくので、参加者それぞれの個性、役割、会議への貢献度などがわかってきます。 

大橋 グループワークのプロジェクトを評価する場合、チーム単位のアウトプット成果の評価はできるのですが、その中の一人ひとりがどういう役割で、どう活躍したか、というところまではわからないわけです。そこを「見える化」しようというのが、今回の共同研究のポイントですね。 

大橋 一広/おおはし・かずひろ
株式会社イトーキ DX推進本部 デジタルソリューション企画統括部統括部長

この共同研究で実現を目指すシステムで、何ができるようになるのか、もう少し具体的に教えていただけますか。たとえば、分析結果を会議中に見えるようにする、ということなども可能なのでしょうか。 

中西 今のところは、会議が終了してから分析していますが、将来的にはライブでもそれができるようにしていきたいと思っています。

大橋 会議の時間がないので巻いていきましょうとか、アイデア発言が停滞してますよとかリアルタイムに分析結果をフィードバックするほうがよいものと、後から振り返ったほうが効果的なものと、要素によって違う特徴がありますすべての情報や分析がライブで出ると、会議に集中できないですからね()。大きなプロジェクトの場合、会議はその場限りではなく、継続していくものですから、前回の会議を振り返ることで次の会議に活かす、ということも重要ですよね。 

画像分析は、マスクをしていてもわかるものなんですか? 

中西 それも今チャレンジしているところです。やはりマスクはないほうがデータを採りやすいというのはありますが、マスクをしていてもある程度は目の動きでわかります。 

大橋 対面だと、顔の表情や体のしぐさから察する、雰囲気や空気を感じることは、みんな無意識にやっていますよね。話を聞いていないなとか、つまらなそうだなとか熱意あるなとか。そのあたりのデータも可視化されるようになると、会議をうまくファシリテーションできたり、参加者をフォローしたりすることができます。 

対面で行う会議のような「空気感」を、このシステムでどこまで読めるか、ということですね。もう一つ、これからはグローバルな会議やグループワークがもっと増えていくと思いますが、外国人が入ってもこのシステムは有効なのでしょうか。 

中西 これはまだ実践はしていませんが、自動翻訳機能を使えば、分析することは可能だと思います。 

大橋 英語を英語のまま分析することもできますし、日本語に自動変換して分析することもできると思います。外国人の先生が日本の学生にレクチャーすることもあると思いますし、ビジネスにおいても海外の企業と一緒にグループワークをすることがある。多国籍なメンバーでやればやるほど、一人ひとりのキャラクターの差が出てきますから、後から振り返ってサポートできることはたくさんあると思いますね。

さまざまなデータが採られ、AIにすべての評価を委ねてよいのかという、怖さもちょっとありますね。 

中西 分析結果をすべて出してよいということではなく、何をどのタイミングでフィードバックするか、というとことが重要だと思っています。たとえば分析結果から学生の足りない点を指摘することはできますが、それよりも学生のよいところを見つけて伸ばしていけるよう、フォローしていきたい。それが学生の研究や成長につながっていくわけですからね。実際、私の研究室で学生に使ってもらっているのですが、こういうデータはあったほうがいいとか、学生からもいろいろアイデアが出ています。グループワークの場合、中には積極的に参加しない者も出てきます。それに対しては学生自身もシビアで、誰がどう貢献しているかが客観的にわかるということで、こういう振り返りツールを欲しているところがありますね。決してネガティブにではなく、ポジティブに受け止めているようです。 

大橋 たとえば、1時間のディスカッションの中で自分はほとんどしゃべらなかったから、もっと発言したほうがよかった、というような気づきがあるわけです。そのディスカッションの中で自分をどれだけアピールできるか、セルフブランディングできるかというのは、学生にとっては大事なポイントです発言するのが苦手な人はキーボードを打って表現するとか、他の表現方法を模索するようになる。これが自己研鑽や気づきと行動につながればいいですね。セルフラーニングにつながるわけですね。 

リモート会議では、対面で行う会議のような「空気感」をどこまで出せるかがカギになる、という中西氏(左)と大橋氏(右)

このシステムはもともとオンラインとの親和性が高いということですが、対面でのグループワークとオンラインのグループワークでは、何か違いを感じていますか? また、研究を進めるうえで新たな気づき、アイデアはあったのでしょうか。 

中西 対面だと雑談が気軽にできますが、オンラインだと必要最低限のことしか話さない、という傾向はありますね。やはり、対面の人もオンラインの人も平等に、一体感のある会議をどう実現できるかというところがポイントだと思います。たとえばヘッドセットを装着して仮想空間で会議を行う。これはいま実験中ですが、これだと一体感は出やすいですね。 

大橋 たとえば対面が3人でリモートが2人という場合、対面の人だけで盛り上がって、リモートの人は蚊帳の外、ということがしばしばあります。このシステムでは対面の参加者とオンラインの参加者の発言比率などもわかりますから、次の会議で修正することができます。対面の人もオンラインの人も対等に議論に加わることができ、評価される、そうしたハイブリットワークが可能なシステムを目指しています。
 新たな気づきで言えば、いわゆるZ世代といわれるデジタルネイティブの若者たちが、どういうディスカッションを好むか、ですかね。大人たちは経験上、みんなで集まって侃侃諤諤(かんかんがくがく)やり合ったり、ワイガヤでカジュアルに対話したほうがいいアイデアが出るだろうと固定概念もありますが、Z世代はそうではなくて、オンラインやSNSのほうが自由闊達に発言できるということもあるようです。そのほうが、年齢や上下関係、スキルなどを気にせず発言できるというんですね。デジタルネイティブの人はデジタル上で会話するほうが活性化する、ということ。これは、私たちが働く場、学ぶ場の空間デザインを考えるうえで重要なことで、対面の機能を大切にしながらも、一方ではオンラインワークがしやすいという、多様性が必要だということがわかりました。

この共同研究の今後の展開を教えていただけますか? 

大橋 これからは多様な人が集まり、チームを組んでプロジェクトを進めていくことが、学校でもビジネスでも主流になってきます。そのために、一人ひとりの個性や役割を分析し、プロジェクトのチームビルディングに生かしていく。そのうえで個人のスキルアップと、チームとしての生産性の向上を図ることが、このシステムの目指すところです。そのためには、学生、教員、あるいは企業など、さまざまな現場、立場でこのシステムを試してもらい、ブラッシュアップしていくことが大事だと思っています。同時に、カメラやマイクなどの技術も高めていく必要があるので、デジタル技術のメーカーと連携していろいろな装置を開発していきたいですね。先生とのこの共同研究がどれだけ独自性を持てるかが重要だと思っています。 

技術はどんどん進化していますからね。そして、そうした新技術を取り入れることに関しては、学生はすごく速いです。 

中西 そうですね。使いこなすスピードが速い。それに、コロナ禍でオンラインの授業が増えて、大学に来なくても授業を受けられるというのが学生もわかってきました。いま授業は対面とオンラインを併用していますが、対面で授業をすることの価値がどこにあるのか、その価値をどう提供していけばよいか、という課題を突き付けられているところです。その意味でも、今回の共同研究が何かのヒントになるとよいと思っています。 

共同研究が素晴らしい成果をあげることを期待しています。本日はどうもありがとうございました。 

さまざまな現場、立場でシステムを試してもらい、ブラッシュアップしていきたい、という大橋氏(左)と中西氏(右)

※テキストマイニング/データ-マイニングの手法を用いて,未加工の文書情報(テキスト-データ)群に含まれているある傾向や相関関係などを発見すること。またはその技術のこと。 


中西崇文/なかにし・たかふみ
武蔵野大学データサイエンス学部准教授  

1978年、三重県伊勢市生まれ。2006年、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構研究員。2014年より国際大学グローバル・コミュニケーション・センターGLOCOM准教授・主任研究員として。テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年、武蔵野大学工学部 数理工学科 准教授2019年4月より現職。著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くないちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある 

大橋 一広/おおはし・かずひろ 
株式会社イトーキ DX推進本部 デジタルソリューション企画統括部統括部長 

1993年イトーキ入社。公共施設・博物館の展示企画・コミュニケーションデザイン、2004年より、新規市場コラボビジネス開発を担当し、次世代の知識創造ワークのコンセプトデザインに従事。2011年よりデジタル・ICTを活用した事業企画、商品開発を推進し、ICT分野の企画推進部長、先端技術研究所長を経て、現職。現在はデジタルとリアルをつなぐ空間システム、IoTやAI等の先端技術により、明日の『働くと学ぶ』を支える次世代スマート環境の研究開発を中心に、デジタル技術研究所を統括している。 

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