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アート作品の価値継承にブロックチェーンを活用。スタートバーン・施井泰平氏が挑むアート業界の課題とは

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ブロックチェーンを活用したアートの流通や評価のインフラとなる「Startrail(以下、スタートレイル)」を構築し、法人や団体とのブロックチェーン共同事業も展開しているStartbahn(以下、スタートバーン)。その創業者である施井泰平(しい・たいへい)氏は、自身も現代美術家として活動している。なぜアーティストが自ら起業したのか、そしてこのインフラは、美術界にどのような影響を与えるのだろうか。前後編にわたり施井氏にインタビューし、前編ではスタートバーンの事業とその理念について聞いた。

アート業界における、デジタルトランスフォーメーションとは

 ――スタートバーンを起業した目的と事業内容を教えてください。 

施井泰平(以下、施井) 現代美術作家として20年近く活動して感じた、アート業界の課題を解決することを目的に、東京大学大学院学際情報学府在学中の2014年に起業しました。その課題とは、アート業界における広い意味でのデジタルトランスフォーメーション。具体的には、アート作品における価値の保存や継承に関わるインフラ作りです。この領域にアプローチしている人は誰もいなかったので、このまま人に任せていたら不本意な仕組みになってしまうかもしれない。アーティストの目線でインフラの在り方を模索することに意味がある、と考えたのが起業の起点です。当社の主なサービスは、作品の真正性や信頼性の担保と価値継承を支えるブロックチェーンインフラ「スタートレイル」の構築。そしてこれをより簡単に利用するためのツールとして、「Startrail PORT(以下、スタートレイルポート)」を提供しています。

――アート作品の価値の保存や継承に対して、ブロックチェーン技術はどのように課題を解決するのでしょうか。 

施井 アート業界はアカデミアから美術館、非営利団体、オークションハウス、ギャラリー、さまざまなステークホルダーが関わり合いながら、作品の価値を醸成していきます。そして作品自体も、今すぐに人気が出て消費されるというよりも、時代を経て残り、広く人に見られるようになることで、価値が生まれます。こうしたアート特有の性質をサポートするのに、ブロックチェーン技術は相性がいいと考えました。なぜならブロックチェーンは、特定の会社や機関がデータを管理しない非中央集権的な仕組みなので、誰かの都合によってデータが消えたり改ざんされたりすることがなく、半永久的にデータが残り続けるからです。

スタートレイルは作品の信頼性と真正性の担保、ひいては価値継承を支えることを目指してNFTを発行しています。NFTには発行事業者の情報はもちろん、その後の展示や取引、修復や鑑定など、作品の価値に関わるさまざまな情報やデータを記録できます。また、作品の二次流通や利用について設定した規約が、サービスを横断して引き継がれるので、長期的な作品管理ができます。絵画や彫刻などの物理的な作品はもちろん、画像、映像、音声などのデータに基づくデジタル作品、さらにはインスタレーションなど、さまざまな形式に対応しています。

マンガの価値をブロックチェーンによって証明し、次世代へ引き継ぐ

――現在、取り組んでいる具体的なプロジェクトを教えてください。

施井 21年にスタートした「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE(集英社マンガアートヘリテージ)」があります。マンガの原画は経年変化に弱く、ほうっておくと退色してしまいますが、集英社はカラー原画を高精細でスキャンしてアーカイブしてきました。それを高品質の用紙とインクでプリントして抽選販売した際に、その価値を保証して次世代へ引き継いでいくために、当社のスタートレイルポートが導入されました。
今、アートになっている江戸時代の版画は、もともとは大衆向けのものでしたが、西洋人がアート性を見出して保存管理を始めたことで芸術作品となりました。マンガも将来にわたってアーカイブが進むよう価値管理をしていくべきだという思いが、このプロジェクト発足のきっかけです。マンガという文化を、時代を経てアートにしていくこともコンセプトに含まれている点が象徴的だと思っています。

――電子データではなく、物理的なモノとしてプリントすることにも価値があると考えていますか。

施井 NFTアートは、ブロックチェーンを利用することでデジタルアートに唯一性を持たせたものですが、スタートレイルポートはデジタルデータにもモノとしてのアートにも、ブロックチェーン証明書を付けることができます。ブロックチェーン上に発行したトークンを画像データに紐付けるか、リアルなアートに紐付けるのかの違いであって、仕組みの上ではNFTと同じです。

――物理的な作品に今まで付けられなかった情報を付けることによって、価値がきちんと証明され、それが半永久的に受け継がれていくということですね。

施井 そうですね。まさにNFTのデジタルアートの出現は、「誰が所有しているか」や「これは本物である」といった情報が重要であって、モノとしての作品自体に価値があるのかどうかという大きな問いを投げかけているように思います。
イギリスの小さなオークションハウスでは、約13万円で売買された絵画が、十数年後の17年に510億円で落札されました。何が起きたかというと、世界の5人の権威のうち1人が、その絵画をレオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」の本物だと認めたのです。すなわち、13万円か510億円か、そのモノではなく「本物である」というインフォメーションが価値を決定したということの証左になりました。

―――  

後編では、アートとテクノロジーの融合について伺います。

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