イトーキ DX推進本部 デジタルソリューション企画統括部と武蔵野大学は、2023年9月、産学連携ワークショップ「響学スパイラルが生まれる教室」を共同で開催した。建築デザイン学科の学生によるDIYでリノベーションされた教室で、さまざまな学科の学生たちが「クリエイティブな学びを刺激する机やイスの配置パターンとは?」というテーマに挑んだ。その様子を振り返りながら、今求められている「学びの場」はどのようなものか、武蔵野大学 MUSICセンター員の田丸恵理子氏、同センターを兼任する、教養教育リサーチセンターの宮田真宏氏、工学部長の風袋宏幸氏に語っていただいた。聞き手はイトーキDX推進本部 デジタルソリューション企画統括部 デジタル企画推進チームの小笠原豊と、市場別営業統括部 第3支店営業1チーム チームリーダーの茂津目孝文。
学部・学科を横断した産学連携ワークショップから多様な議論が生まれる。
――今回のワークショップ冒頭で、イトーキは参加された学生の皆さんに、先進的なスマートキャンパスや空間デザインに関するレクチャーを行いました。さらに、社員がワークショップのアドバイザーとしてグループのディスカッションに参加。音声認識AIカメラシステムや振り返りシステムの活用を支援し、成果レビューを行うなど先進的で充実したプログラムとなりました。この企画に至る経緯を教えてください。風袋宏幸(以下、風袋) ざっくりと振り返ると、まず2021年度に新しい教室づくりを構想し、22年度前期のDIYリノベーションプロジェクトによって、最低限の物理的環境が誕生、その後期からAI副専攻を含む複数の科目で授業実践が始まりました。23年度は、構想デザインとDIYの継続、授業実践が同時に進んでいった感じです。そうした中で、学部学科横断・産学連携をキーワードに頭を捻り、このワークショップが企画されました。
田丸恵理子(以下、田丸) 単に従来型の授業を行うのではなく、この空間をどう活用するか、使い方のパターンを考えていく必要がありました。この課題を解決するにあたって学生も巻き込んで一緒に検討してもらおう、それが今回のテーマになったわけです。
――参加学生は14名。その内訳は、教育学科3名、建築デザイン学科4名、環境システム学科3名、経済学科4名です。学科横断の取り組みという点から生まれた面白さはありましたか。
宮田真宏(以下、宮田) 教室を使うという観点では教育学科の学生が、教室をデザインするという観点では建築デザイン学科の学生がそれぞれ詳しいのですが、両者がうまく連携しているようでした。それぞれの学生の主張に対して「そうじゃない」と意見し合っているグループもあり、かなり面白い議論をしていたと思います。
田丸 課題に対するアプローチが両者で異なるので、いい意味で思った以上にぶつかり合いながら議論していましたね。もっとオーソドックスなアイデアが出てくるかと思っていましたが、ユニークすぎるくらいのアイデアで、議論の過程や結果がよく表れたアウトプットになっていました。特に我々が誘導したわけではないのに、学生だけではなく教員の動きに関しても検討したり、個々人の視点に加えて教室全体の視点も考慮するなど、幅広い観点での議論が行われていました。このような多視点的な議論ができたことは、グループにさまざまなメンバーがいたことの良さが出ていたと思います。意図的に異なる学科の学生を入れた構成にしましたが、同じ学科の学生同士のグループにしていたら、きっと全然違う議論やアウトプットになったのではという気がします。
宮田 この教室のレイアウトを考えるというテーマで、用意した模型を使いつつ、実際の机やイスを動かして並べたりできたことも、この教室で開催したことのメリットとなっていました。
デジタルを柔軟に受け止め、変化する教室を拡げてゆく。
――今回イトーキはオンラインとオンキャンパスが混在するコロナ後の新しい在り方として、また武蔵野大学MUSICが標榜されているAI-Ready-Universityを後押しする観点から、音声認識AIカメラシステムや、グループワークを振り返ることのできる分析システムを活用した、学びのDXにおいて一緒に取り組みましたが、この点についてはどのようにお考えですか。
田丸 基本的に武蔵野大学の全ての学生はBYODが前提となっているので、例えばグループワークの中で議論が行き詰まったとき、ChatGPTに聞いてみることで議論が再び活性化することがあるんです。ChatGPTは学生とは異なる知識を持ったグループメンバーの一人として自然に存在できるので、グループワークの中にAI的なものを取り込むことはできると思います。
風袋 新しい教育の在り方を追求すると、自ずとAI-Readyの空間に行き着くのかもしれませんね。ここで重要なのはDXの「X」だと思っています。トランスフォーメーションにいかに向き合うか。この教室は時代のトランスフォーメーションに適応するための仕掛けがいろいろと施されています。レイアウトが変えやすく、物理的な使い方を柔軟に変化させられることも特徴の一つ。AI-Readyな教室のフィジカルモデルだと思います。
――今後の展望、取り組みについてお聞かせください。
風袋 新しいタイプの教室を、多くの学生が在学中に体験できるようにしたい。そのためには、こうした教室が複数必要です。そうすることで時間割が調整でき、多様な授業も展開できます。
田丸 そうですね。こうした教室を増やすことで響学スパイラルを体験する学生と教員が増え、多くの授業が行われることで教室の使い方にも多様性が増すでしょう。「スパイラル」という名の通り、終わりがなくどんどん上昇していくものですから、この教室自体も新しい発見に基づいて常に変わる実験の場として、響学スパイラル的に展開していけたらいいですね。
宮田 今の学生はコロナ禍の影響もあり、未だにやや所属する学部や学科に閉じこもりがちではないかと感じています。サークルや部活でのつながりはあっても、学びにおいては少ないですし、オンラインでのつながりがほとんどだったりするので、実空間でつながりながら学べることの価値は大きい。これがどんどん広がっていくことで、どこでもそうしたつながりを作れる流れができればいいのではないかと思います。
―イトーキ 小笠原コメントー
武蔵野大学MUSICの皆さんとは過去3年間にわたり、学生のグループワークを起点にした、新しい教室の在り方について議論し、実験的な取り組みをご一緒させていただいてきました。
今回のワークショップでは、ウェブ会議システムを通じた遠隔参加者を含めた形でのレイアウト検討と、学生の学びをサポートする「グループワーク振り返りシステム」の実践も行いました。
これは、武蔵野大学さんと共同で開発した、グループワークでの発話を収録し、発話量や個人の活躍の状態を見える化することで、活動の振り返りに役立てるアプリケーションですが、学生さんのPCで、非常に実践的かつ手軽に使っていただくことができました。
システムを使う上では音声を良好に収録するために、マイクやスピーカーの位置関係が重要になりますが、そうした点に留意しつつも非常にクリエイティブなレイアウトアイデアが出てきて、改めてグループワークの力を感じた1日でした。
レイアウトが変えやすく、物理的な使い方を柔軟に変化させられる空間は、正にこれからのキャンパスに求められる重要なトランスフォーメーションと考えています。オンラインとオンキャンパスが自在に同居できる、この教室のような空間を増やしていくことで、学びのDXを強く推進していきたいと改めて感じました。