
東日本大震災からの復興を目指して、2015年に福島県双葉郡広野町に開校した県立ふたば未来学園。中学生、高校生が通う一貫校で、地域との深い関わりを軸とした「未来創造学」(中学校)、「未来創造探究」(高校)という探究学習を実践しています。学習コンテストで多数の入賞実績を持ち、多くの教育関係者から注目されている同校。多様な背景を持つ生徒が主体的に動き、外部と協働しながら課題解決に取り組む姿勢は、いったいどこから生まれるのでしょうか。創立10周年を迎えた同校の実践について、副校長の瀧本基先生に話を聞きました。
震災復興から生まれた「変革者」を育む学校
「『教育のないところに住民は帰還できない』。本校が開校したのは、そんな強い思いからです」。ふたば未来学園の瀧本基副校長はそう語ります。2011年の東日本大震災に伴い、双葉郡内にあった5つの県立高校が休校を余儀なくされました。住民の帰還が可能になっても、教育の場がなければ若い世代は戻ってきません。学校の存在は、地域の人たちの生活と未来を取り戻すために欠かせないものでした。そんな願いを受けて、2015年4月にふたば未来学園は開校しました。
建学の精神として掲げたのは「変革者たれ」という言葉です。「震災と原発事故という、人類が経験したことがない災害に直接見舞われたこの地域は、解決困難な課題に直面しています。建学の精神は、この課題に向き合い、解決に取り組む人物を育成したい、という教育ビジョンを表わしています」と瀧本副校長は説明します。
定員は、中学校が各学年60名、高校が各160名。高校ではアカデミック、トップアスリート、スペシャリスト(農業・工業・商業・福祉)という3つの系列に分かれ、それぞれの目標に向けた学びを追究していきます。進学、スポーツ、そして地域産業に対応した実学と、生徒たちの可能性を伸ばし、地域の要請にも応える多彩な学びが用意されています。

「未来創造探究」──地域と共に創る学び
「本校の探究活動の大きな特徴は、地域との関わりが非常に大きいことです」と瀧本副校長は語ります。探究学習を開始するにあたり、生徒たちは双葉郡内をバスで回り、この地域の姿と課題を自分の目で見て肌で感じます。中学生も高校生も、最初は必ずこのフィールドワークから始めるそうです。そして高校1年生の前期では、各自が感じた課題をグループで話し合い、5分程度の「演劇」にして発表します。「感じたことを第三者の立場で語るのではなく、その課題の当事者になりきることで、相手の立場を推測し、周りの状況を観察する力が養われます」と瀧本副校長は説明します。
高校1年生の後期からは、6つのゼミに分かれて本格的な探究活動が始まります。原子力災害からの復興と伝承、共生社会の実現、地域産業の振興、人間科学・文化・芸術、自然科学・地球環境、スポーツ医・科学といった多様な分野が設定され、生徒は自分の興味関心に応じた探究のテーマを決めていきます。1つのゼミに生徒が30人程度、教員は4〜5人という手厚い体制で、生徒一人ひとりの探究をサポートします。 高校3年生の5月には全員が探究の成果を発表し、その後、卒業論文としてまとめるそうです。
「双葉町出身のある生徒は、地元に伝わる『女宝財踊(おんなほうさいおどり)』という伝統舞踊を探究のテーマにしました。震災の影響で踊り手の方々の居住地がバラバラになって練習もままならず、このままでは伝統が途絶えてしまう。そこで、地域の方々と協力してイベントを企画することで、踊り手の方々や地域の方々が集う場をつくるとともに、より多くの人たちにこの踊りを知ってもらう機会をつくったのです」
この生徒は「地元って何なんだろう? ふるさとって何なんだろう?」というより深い問いに辿り着いたようだと瀧本先生は振り返ります。
また、大熊町出身の生徒についても印象深いエピソードがあります。
「この生徒は現在いわき市に住んでいるのですが、子供のころに地元の大熊町で食べた梨の味が忘れられなかったそうです。現在、大熊町で梨は作られていませんが、大熊町の梨の歴史について調べたり、元は梨を作っていた農家の方にインタビューするなどしながら、自分のふるさとについて思いを巡らせたようです」
その生徒は、探究の発表で「私はいわき市の一部。そして大熊町は私の一部」と表現したそうです。思い出に残る梨を探究することで、自身のアイデンティティを考える貴重な機会になったようです。
このように、探究活動を通じて生徒たちは大きく成長していきます。卒業時のアンケート調査では、「社会とどう関わっていくかを見出すことができた」という生徒が、全体の4分の3以上に上ります。日本財団が行なった調査(※)では、日本人の18歳で「社会の一員だと思う」と感じるという人は半数程度、「自分の行動で国や社会を変えられると思っている」という人は4分の1程度というデータもありますから、ふたば未来学園の生徒たちの社会参画意識の高さがうかがえます。
※日本財団「 世界の18歳意識調査」の日本の調査結果(2021年実施)
多様性を力に変える環境づくり
瀧本副校長が考える同校のキーワードは「多様性」です。生徒は、福島県内はもちろん、北海道から九州まで全国から集まり、高校では3つの系列で異なる目標に向かって学びを深めていきます。
「バックグラウンドや目標が異なる子供たちが一つの学校に集い、お互いの多様性を認め合い、力に変えていくことが本校の特色であり、強みです」と瀧本副校長は語ります。
この多様性を支える仕組みの一つが、教育支援を目的とするNPO法人カタリバとの協働です。カタリバのスタッフが学校に常駐し、探究活動の伴走役を務めるだけでなく、放課後も生徒たちの学習支援や進路相談に応じています。校舎の中央部には「地域協働スペース」が設けられ、生徒、教員、NPOスタッフ、そして地域の人々が自然に交わる場となっています。
海外との交流も活発です。中学校では、3年間の集大成として3年生がニュージーランドへ約1週間の研修に行きます。これは一般的な修学旅行に代わるもので、生徒たちは探究の成果を現地で英語で発表することを目標にしています。
高校では、生徒の代表がドイツやアメリカ・ニューヨークでの研修に参加。グローバル教育の成果として海外留学を志す生徒も増えており、学校としてもドイツ、イタリア、タイなどから留学生を積極的に受け入れています。
こうした環境で育つ生徒たちには、ある特徴があると瀧本副校長は言います。
「自分の意見を発表することに物怖じしません。また何か壁があっても『なんとかなる』と前向きに考えられる生徒が多いと感じます」
多様な人々との交流を重ねることで、生徒たちは、主体的に動きつつ、外部の力を借りながら課題解決に取り組む姿勢を身につけていくのです。
試行錯誤を重ねて作り上げたシステム
2025年の4月に着任した瀧本副校長は、ふたば未来学園の充実した探究活動のシステムに驚いたと言います。
「他の学校では、探究活動が本格的に始まったのが3〜4年ほど前で、まだ試行錯誤している段階。しかし、本校は開校当初から探究学習に取り組んできたため、豊富な経験と知見が蓄積されています。それらを反映したカリキュラムとツールも充実しています」
たとえば、生徒の成長を測るルーブリック(評価基準表)を用いた自己評価の仕組みや、ゼミごとの教員チームによる定期的な進捗確認など、探究活動を支える具体的な手法が確立されています。
10年をかけて、何回もサイクルを回してきたふたば未来学園の探究学習は、今も進化を続けています。最近は生徒から、「テーマは地域のことしか扱えないですか?」という声も上がるそうです。そこで現在は、地域課題に加えて、生徒それぞれの興味関心や進路につながるテーマも探究できるように幅を広げています。
ふたば未来学園は、探究学習の先進校として、同じく探究学習に力を入れる各地の学校と成果を共有するだけでなく、福島大学や会津大学、東北大学といった大学や、アクセンチュアなどの企業とも連携・協働を進めています。また、福島県教育委員会が開催する「探究スタートアップラボ」では、毎年県内外から10校ほどの責任者が集まり、これからの探究学習について議論する場にもなっています。地域と共に「変革者」を育てる教育に挑戦し続ける同校の取り組みは、他の多くの学校とそこで学ぶ生徒たちにも「変革」をもたらしています。

<プロフィール>
瀧本基(たきもと・もとい)
福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長
1970年2月23日生。専門科目は英語。
2025年4月、前任の福島県立喜多方高等学校から、県立ふたば未来学園中学・高等学校の副校長に転任。
イトーキコメント:小笠原
ふたば未来学園が10年にわたり積み上げてこられた「未来創造探究」のお話を伺い、取り組みの精緻さに驚くと同時に、生徒一人ひとりの主体性を大切にする姿勢と、地域への深いリスペクトを強く感じました。
探究学習は、主体性を育むだけでなく、先生方や仲間との関わりを通じて“自己肯定感”や“世界とのつながり”を学ぶ機会でもある――そのことに改めて気づかされました。
私たちも、学びを支えるソリューションの開発や、学習環境のデザインを通じて、こうした探究の取り組みに寄り添い、未来を創る学びに貢献してまいります。
































