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eスポーツが切り拓く教育DXの新たな可能性 ~岩崎学園「i-CROSS ARENA」が実現するデジタル人材育成の革新的アプローチ~

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単なるゲーム対戦の場を超え、企画・開発・配信・運営まで一貫して学べる教育空間として注目を集める岩崎学園の「i-CROSS ARENA」。LED照明やIoTを駆使した独創的な演出システムを備えるこの施設は、eスポーツを起点としながら、幅広いIT知識を身につけたデジタル人材育成を実現している。設計を手がけた武藤幸一技監と教育プログラムを担当する秋葉友輝氏に、教育DXの新たな可能性について聞いた。

eスポーツのエキスパートを育成する教育

「eスポーツは、プレイヤーだけで成り立っているものではありません。他のスポーツと同様に、たくさんの人が関わる裾野の広い分野なんです」と語るのは、岩崎学園でeスポーツ教育を担当する秋葉友輝氏。同学園の情報科学専門学校・先端ITシステム科のeスポーツ・ゲーム開発コースは2023年に設立され、現在1年生80名、2年生90名の計170名が在籍している。

秋葉氏の言葉が示すように、岩崎学園のeスポーツ教育の特徴は「eスポーツ全般を学ぶ」ことに重点を置いている。「プレーだけではなく、制作から運営まで、全てを理解し、こなせるようにすることを大切にしています」と、技監を務める武藤幸一氏は説明する。
入学する学生の多くも、この考えに共感している。「プレイヤーとして成功できるのはほんのひと握り。ゲーム好きな学生たちもそのことをよくわかっていて、自分はゲームを作りたい、運営側として支えたいと希望する学生が多いですね」(秋葉氏)。

カリキュラムでは、個人のプレースキルの向上だけでなく、チーム戦略の立案や試合に勝利するためのコミュニケーション技法、さらにはゲームの企画・制作や、イベントの運営ノウハウ、eスポーツビジネスの収益構造まで幅広く学ぶ。「まさにeスポーツのすべてを学ぶ内容になっています」と秋葉氏は語る。

こうした教育の成果として、学生の自主的な取り組みも生まれている。eスポーツの本場である韓国に関連して韓国語を学ぶサークルを自ら立ち上げる学生や、あるゲームタイトルの日本代表チームのスタッフになり、サウジアラビアで開催される国際大会に帯同する予定の学生も現れている。「学校としてもそうした学生の挑戦を積極的に後押ししています」(秋葉氏)。

学校法人岩崎学園 情報科学専門学校 担当グループ 経営管理チーム 秋葉友輝氏

革新的な学習環境「i-CROSS ARENA」

eスポーツ全般を幅広く学ぶという教育方針を体現するのが、2023年8月に校舎内に開設された「i-CROSS ARENA」だ。36席のプレイヤー席にはプロユースの高性能PCやマウスなどの機器が用意され、アリーナ正面には3枚のパネルが連結された大型ディスプレイが設置されている。「企画・開発・配信・運営のすべてを一つの場所で体験できる施設」をコンセプトに、総合的な学習環境を実現している。

「i-CROSS ARENA」のプレイヤー席

施設には、全席に制御可能なフルカラーLED照明と音響システム、さらにプログラム制御可能なカメラも随所に備えている。「例えば、格闘ゲームのキャラクターの体力ゲージと連動させて、体力が危険域に入るとそのプレイヤーが座っている席周辺が赤い光に包まれる、といった演出ができます。カメラについても、スーパープレーをした選手に自動的にフォーカスする、といったしくみを構築できます」と武藤氏は説明する。

これらのシステムは、学生たちの創造性を大いに刺激している。「プログラミング学習は必須ですが、自分のアイデアを実現する楽しさを知ってもらうことを最も重視しています。そのため、この場を使って自分のアイデアを形にする体験から始めています」(武藤氏)。
実際に、AIによってゲームプレイを認識し、自動的に演出を制御するシステムを自ら開発する学生も現れている。さらに、設備の機能を活かした謎解きゲームや演出プログラムによるお化け屋敷など、eスポーツ以外での活用も積極的に行われ、学生たちの発想力を育んでいる。

この施設を拠点に、プロのeスポーツチーム「DONUTS VARREL」との産学連携も実現。学生がチームのイベントの運営協力を行ったり、学園祭に選手が出演するなど、幅広い相互連携を展開し実践的な育成を通して、eスポーツ業界への人材輩出に取り組んでいる。

学校法人岩崎学園 情報科学専門学校 担当グループ 技監 武藤幸一氏

地域と連携した実践的な学習機会

同校のeスポーツ教育への取り組みは学園内に留まらない。ゲームで横浜を盛り上げる「横浜GG(グッドゲーム)プロジェクト」や、横須賀市との連携により、学生たちは実際のイベント運営に携わる貴重な機会を得ている。「配信業者の方々と一緒に、大会での機器の操作や映像の制作、進行台本の作成も担当します。実質的に、プロの現場の仕事を経験することになります」(秋葉氏)。

また自治体としてeスポーツの振興に力を入れる横須賀市と提携し、高校のeスポーツ部活動を支援。社会貢献活動の形でも地域を巻き込んだeスポーツ普及に努めている。

「横浜GG(グッドゲーム)プロジェクト」には学生も運営に参加

ITスキルを基盤とした多様なキャリア形成

岩崎学園のeスポーツ教育ではITスキルの習得を重視している。「基礎から応用までを必須として、すべての学生がITの知識を身につけることを重視しています」(武藤氏)という方針により、プロゲーマーをめざさない学生にも、多様なキャリアパスを提供している。
データ分析、システム開発、チームマネジメント、など、多くの企業で求められている知識やスキルが身に付くため、eスポーツに直接関わらない企業でも活躍できる力が身に付く。「ゲームを専門に学ぶことに抵抗を感じる親御さんも、この包括的なアプローチを知って安心していただけるようです」(秋葉氏)。

デジタル人材育成を実現するT型人材教育

岩崎学園が目指すのは、特定分野に特化した「I型人材」ではなく、幅広い知識と専門性を併せ持つ「T型人材」の育成だ。「専門分野を深く学ぶと同時に、幅広い分野に関する学びや実行力の育成も欠かさない。これはゲーム分野だけでなく、すべての学科で共通した方針です」(武藤氏)。
この考え方は、現代のDXが求める人材像とも一致している。「ITの知識をしっかりと身につけつつ、周辺知識や実践経験を用いながら実現可能性を正しく判断し、適切な技術を選択できるようになります」(武藤氏)。

分野融合で切り拓く教育の未来

さらなる学びの進化のために、武藤氏は、分野融合の重要性を強調する。「本学校法人では、ファッション、デジタルアート、リハビリテーション、保育などの専門学校を運営しています。eスポーツは、これらの学びとつなげることができます。ファッションやデジタルアートでeスポーツを盛り上げたり、子どもの学習や高齢者のリハビリに活用できたりします。そうした分野を超えた学びを実践する環境を整えていきたいと考えています」(武藤氏) 。
eスポーツを起点とした教育DXは、単なる技術習得を超えて、創造性と実践力を兼ね備えたデジタル人材育成の新たなモデルとなる可能性を秘めている。岩崎学園の取り組みは、教育とビジネスの境界を越えた学びの場として、今後ますます注目を集めそうだ。

<プロフィール>

武藤幸一(むとう・ゆきかず)

学校法人岩崎学園 情報科学専門学校 技監
i-CROSS ARENAの設計・構築を手がけ、eスポーツを通じた教育DXの推進に取り組む。IoTやAI技術を活用した革新的な教育環境の開発に従事。 

秋葉友輝(あきば・ともき)

学校法人岩崎学園 情報科学専門学校 経営管理チーム
eスポーツ・ゲーム開発コースのカリキュラム開発・運営を担当。地域連携事業や学生のキャリア支援にも積極的に取り組んでいる。

学校法人岩崎学園

https://www.iwasaki.ac.jp/

イトーキ磯部コメント

eスポーツの可能性を広げる岩崎学園の取り組みには、非常に感銘を受けました。プレイヤー育成だけでなく、運営・開発・演出までを網羅する教育は、業界の未来を担う人材を育てるものです。学生たちの自主性と創造力が、「i-CROSS ARENA」という革新的な環境で存分に発揮されている様子を、取材を通じて実感しました。 

イトーキではesports空間の創出・構築に取り組み、esportsのさらなる発展とコミュニティの活性化に貢献してまいります。

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