二つの拠点をつなぐツールを、東京理科大学の経営学部国際デザイン経営学科ではどのように活用しているのだろうか。北海道・長万部キャンパスで地域の人々との連携プロジェクトに参加している1年生にとって、上級生からのアドバイスは貴重なものだ。実際に会っているのとほぼ変わらないコミュニティーを構築していくポイントを探った。
多様な人材をつなぎ、複雑な時代に立ち向かうリーダー育成の一助に
設置された「tonari」はどのように活用されているのだろうか。国際デザイン経営学科(以下IDM)では担任制を採用しているが、1年生の担任は神楽坂に常駐しているため、tonariを使って定期的な面談を行っているという。個々の相談事ならメールでもよいが、10人以上の担当学生と一度に面談するなら、画面が分割されることもなく実際に目の前にいるかのように話せるtonariが便利だ。
「学生同士では、部活やオープンキャンパスの打ち合わせなどに使っているようです。長万部キャンパスの学生ラウンジと神楽坂の教室は、どちらも一種のたまり場的雰囲気があります。学生が自然に集まってくるんですよ」(IDM飯島淳一教授)
神楽坂と長万部で、集まってもらった学生にtonariの使い方を尋ねたが、スクリーンの向こうに誰かいれば自然に声をかけるカルチャーが醸成されているという。最初に自己紹介などのオリエンテーションが設けられているわけでもなく、学年の違う知らない者同士が同じ(に見える)空間にいるだけですぐに交流が生まれるものなのだろうか?
「神楽坂の教室でかかっている音楽が聴こえてくるので、『それ何ですか』と聞いたりします」(1年生)
「私は向こうに人がいれば、声をかけますね。3年生なので長万部キャンパスに行ったことはないのですが、向こうの生活にも興味がありますし、自然に会話ができるのでストレスはないです。去年の1年生が2年生になってこちらに戻ってきたときには、リアルで会ったことはなくても、よく知っている顔がたくさんいました」(3年生)
「長万部キャンパスは同じメンバーと朝から晩まで一緒なので、人間関係が密なんです。だからこそのよさがあるのですが、たまには他の人と話をし、情報収集をしてみたい。tonariを介して親しくなった先輩と雑談をする時間はとても有意義でした。こういうツールがあってよかったです」(2年生)
全体的に、学生のみなさんのコミュニケーション力は非常に高い。これは、IDMが「共感」を課題発見のスタートと位置づけ、重視しているので、4、5人でのグループワークやコ・デザインのプロジェクトのように学内外の人々と連携する機会が多いためではないか、と飯島教授は見ている。
「今は『教育』をテーマに、地元の小・中・高校や役場の方へのヒアリングを行っています。私も定期的にあちらに行きますが、コ・デザインを通して、昨年の1年生も含め本学生たちが街になじんでいるのを感じます。地域の方々と一緒によりよい未来を創造するため、2年生が昨年築いた人脈を頼りに、tonariやSNSでアドバイスを仰ぐこともあるようです」
プログラムとしての協働も視野に入れた展望
導入して1年が過ぎ、tonariは学生生活に溶け込んでいる。互いの拠点の音声が聞こえすぎるときにサイレントモードにすること以外、操作はほとんど不要である。
「学生だけでなく、教員同士の研修会にも利用しています。当初懸念していたIDMの思想なども、2年生以降の学生がここでどんな授業を受けているのかtonariを介して見学してもらうことで、言葉で説明するよりもダイレクトに理解してもらえました。また、この部屋ではデザイン系ゼミの学生が制作物に取り組んでいるのですが、1年生がその様子を日常の中で見る環境ができたのは小さくないメリットです」
すっかり使いこなしている印象だが、今後は積極的にイベントも仕掛けていく予定だ。この10月に企画しているイベントでは、モニターでデータをシェアしながら上級生と1年生でペアを組み、プログラミングを体験してもらおうと考えている。tonariが実現するコミュニケーションについて、学生主体で研究活動するメンバーも生まれた。
「彼らはZoomとの比較研究を行い、昨年11月に開催された経営情報学会の全国研究発表大会でポスター発表をしています。また、複数の教員も研究対象としてtonariに興味を持ち、このツールを用いた遠隔コミュニケーションの実験を行っています」
課題もある。北海道・長万部キャンパスは食堂2階の学生ラウンジに設置されており、夕食後のゆっくりできる時間こそ雑談には最適なのだが、夜は神楽坂キャンパスの学生が帰宅しているためにタイミングが合わないのだ。これは学生からの要望もあり、改善策を検討中だ。
「昨年tonariを使いこなしていた2年生が神楽坂に戻ったので、利用に関して新しい可能性を示唆してくれるかもしれません。これからも、このような新しいコミュニケーションツールが、IDMが目指す『さまざまな人材をつなぎ、複雑な時代に立ち向かうイノベーションリーダー』育成の一助になることを期待しています」
-イトーキ 小澤コメント-
人と人が、場の雰囲気を感じながら遠隔接続によるコラボレーションする。そのために必要な機能は何なのかを、ソリューションの機能と、使い手が何を求めているかの両視点で伺うことで、次世代のコミュニケーションのあり方の1つを知ることができました。
コミュニケーションとは、決して声と表情を相手に届ければ成立するものではなく、場の雰囲気や相手の状況を理解することから深まっていくということを、今回のインタビューで改めて感じました。
飯島 淳一(いいじま じゅんいち)
東京理科大学 経営学部 国際デザイン経営学科 教授
北海道生まれ。1977年東京工業大学工学部制御工学科卒業。83年工学博士。96年、同大学院社会理工学研究科経営工学専攻教授に就任。2016年同大学工学院経営工学系教授。定年退職後、同大学名誉教授。アーキテクチャーデザイナー/研究者。アイルランド国立メイヌース大学兼任教授。