ITOKI

ITOKI Open-DX Lab

for your inspiration.

竹内さん、グローバルに働くうえで日本人に足りないものはなんですか?

overview

日本市場の縮小に伴い、仕事の舞台を海外に移す企業やビジネスパーソンが増えています。しかし、そこで壁になるのが日本人独特の謙虚さ。日本企業の海外事業支援を行う竹内明日香さんに、グローバルな働き方にシフトするために大切なことを教えてもらいました。

  • 掲載されている情報は掲載時点のものです

話す力が日本人のウィークポイント

日本企業の海外事業支援をされていますね。日本企業や日本のビジネスパーソンの"弱み"も多くご存じかと思います。

そうですね。ズバリ「話す力」です。銀行勤務後、2007年から海外の投資家向けのリサーチを開始し、2009年には海外事業全般のサポートを開始しましたが、製品やサービスの質の高さは素晴らしいのに、海外との取引にまで至らないというケースに多く出会いました。理由は日系企業の「話す力」「伝える力」の弱さです。語学力が低いという話では必ずしもないんですよ。重要なポイントが的確にアピールできてないんです。

そこをサポートすべく、現在は日本企業向けのプレゼンテーション支援業務も行っています。

日本人のプレゼンが伝わらない理由は、何なのでしょうか?

謙虚さ、「起承転結」を気にして話すあまり最後まで何が言いたいのかわからないという日本語文法の問題、そして「聴衆の心を動かす」という情熱が見えない、などいくつかの点が挙げられます。

日本語や日本文化の特性もありますが、いずれも教育の問題は大きいと感じます。アメリカ、イギリスなどの学習指導要領や授業科目を見てみると、人前で話す授業が幼稚園の段階から入っています。スピーチ、プレゼン、自分の考えをスライドにまとめる授業もカリキュラムに組みこまれているんです。

教育の影響も大きいのですね......。

教科書にもよりますが、日本の子どもたちがようやくプレゼンテーションの授業を受けるのは小学5年生ごろです。新聞を作成して発表したり、国語では作文、図工でポスター制作、音楽で発声、学芸会で劇を行うけれど、それらが「伝える」という軸でつながっていない。そして意見を発表するという「体験」も足りない。グローバル化が急激に進んでいるのに教育は昔のままで、社会とのギャップが大きいんです。

子どもたちに『話すちから』を

子ども・若者向けに、どんな取り組みをしていますか?

プレゼン力を鍛えるのは、早ければ早いほど良い、と感じたので、3年前に「アルバ・エデュ」を設立して、子ども向け、若者向けにプレゼンの授業やワークショップを開始しました。子どもたちが発表する「場数」を提供しようと思いまして。2018年2月末時点で、9000人に授業を提供しました。

プレゼン力はチャンスをものにすることにつながるんでしょうか?

チャンスの神様には前髪しかない、なんて言われますよね。一瞬しかないということですよね。GEのCEOであったジャック・ウェルチは、「エレベーター・ピッチ」を重視していたといわれます。エレベーターで一緒になった幹部社員が、今の仕事についてエレベーターを降りるまでに答えられなければ「降格」というくらい! いわゆる聴衆を前にした「プレゼン」のみならず、短時間で自分の考えをまとめて、関係者にミニプレゼンをする力があるかどうかでその人の一生が変わるかもしれませんよね。

都立高校でもプレゼンの授業を持っているのですが、さまざまなテーマを10秒で考えて30秒で話す「エレベーター・ピッチゲーム」を取り入れたりしています。自分の考えをぱっと話せる「瞬発力」を持ってほしいんですよね。それで生徒たちの人生も変わるような気がしていて......。

プレゼン手法に加えて「ストック」を重視せよ

人前で自分の意見を言うことが「恥ずかしい」という気持ちもありそうです。日本人は控えめですし。

それも私たちの思い込みかもしれませんよ。人種間の差は脳科学上でも認められないようです。たとえば、明治時代に東洋初のIOC委員となった嘉納治五郎は、欧米のIOC委員を相手に、堂々と東京五輪招致のスピーチをしていたと言います。「日本人が控えめ」という状況は、戦後、日本人が強いアイデンティティを持つことを否定されたことなど、いくつかの後天的な要因があるのかもしれません。

日本人がグローバルな働き方を会得するうえで、必要なことを教えてください。

まず、意見を言うこと。グローバルには「自分の意見を言わない人=何も考えていない、能力がない人」となるので、なるべく自分ならではの意見を言うと良いでしょう。もうひとつは、ストックをつくることです。

ストック?

海外の方と一緒に出張すると、移動中も世間話から日本の文化・歴史に対する考え方まで深く濃く質問されます。それに答えられないと、やっぱり「何も考えていない」となる。つまり、対等に渡り合うには、その前に自分の意見を深めて言語化し、ストック、すなわち自分の意見の引き出しを準備することです。

日本人はプレゼンが下手と言われ、プレゼン教室では声の出し方や話し方が指導されます。でもその前に、考えを深めて言語化して「ストック」を持つこと、そしてそれをいかに論理的に相手に伝えるか、が大切だと思います。

家庭、仕事、教育がシームレスにつながれる空間を

世界の働き方に比べて、日本企業は変わりつつあるのでしょうか。

複業OKの会社が増えたのはいい傾向ですね。ひとつの会社で働き続ける、長時間働くことをよしとするという風土もまだありますから、外の世界を見て自社を振り返ることができるのはいいと思います。社を超えて、プロジェクト単位でコラボするといった話も増えていますよね。結果として、それぞれの会社に良い影響をもたらすと思います。

あとはリモートワークが普及したことも喜ばしいです。私たちも毎週月曜はミーティングがあるのですが、社内にいるのは2、3人。ほかのメンバーは、川崎、茅ヶ崎、杉並......、それぞれ他の活動や育児も両立している人たちで、リモート会議を行っています。みんなが集まるのはセミナーや出前授業のときだけなんですよ。

竹内さんの理想とする働き方を教えてください。

家庭、仕事、教育がシームレスにつながること、でしょうか。たとえば、お父さん、お母さんが仕事をしている横で子どもが勉強していたり、料理しながらパソコンで情報収集ができたり。仕事、家事、育児、介護をバラバラにするのではなく、ひとつの空間でシームレスに行える。そんな働き方ができるようになれば、家族の一体感も強くなり、楽しみも増えると思います。

竹内さんにとって「働く」とは?

一文字で表すなら「興奮」、「興味」、「興す」の「興」です。「働く」ことは、毎日ワクワクしてエキサイティング、そして新しく何かを創り出すクリエイティブなものだと考えています。

竹内 明日香(たけうち あすか)
株式会社アルバ・パートナーズ 代表取締役 / 一般社団法人アルバ・エデュ 代表理事

日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)にて国際営業や審査等に従事したのち独立、2009年に海外事業支援と情報発信支援を行うアルバ・パートナーズを設立。さらに子どもたちや若者たちの話す力を伸ばすべくアルバ・エデュを設立。プレゼンの出前授業や研修、女性活躍や働き方改革に関するセミナーを行っている。音羽の森オーケストラ「ポコアポコ」主宰、公立小PTA会長で3児の母。

ハタラキカタログ

一人ひとりの人生に同じものが無いように、働き方も十人十色。
さまざまな分野の第一線で活躍される方々へのインタビューを通じて
働き方のDXに向けた多様なニーズを発信していきます。

TOP