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起業したいという思いは、すべての人の心の中にあるものです。

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シリコンバレー企業のエグゼクティブを務めた後、企業の戦略的プランニングや製品管理のコンサルティングを手掛けてきたラシュミ・メノンさん。その豊富な経験を生かし、現在はミシガン大学のロス・スクール・オブ・ビジネスの講師としても活躍、起業家の育成に力を注いでいます。起業において必要なことは何か、講義で大切にしていることは何か、などをテーマに話を伺いました。

企業人から大学で教える立場になられたきっかけはなんでしょうか?

私はウォルト・ディズニー・カンパニーやマイクロソフト、ヤフーといった大企業で数多くのビジネスや製品を立ち上げました。その後起業し、グリーン・リソース・ネットワークを共同設立、ハイテクベンチャーのZvents(のちに米国のグローバル電子商取引企業eBayが買収)やVideoGenieでは副社長(製品管理担当)を務め、現在はミシガン大学のロス・スクール・オブ・ビジネスで起業家研究と経営学の講師を務めています。私が教育に携わるようになったのは、もともと教えることが好きだったからです。学生が卒業する際に「起業のスキルを習得できた」と言ってくれるのが、私にとってはこの上なくうれしいことですし、その積み重ねにより社会にインパクトを与えられればいいなと思っています。

大学ではどのようなことを教えられているのですか?

起業に必要なことはすべてひと通り教えます。新しいアイデアの考案の仕方、顧客ニーズのとらえ方、ビジネスモデルの作り方、チームの構築法、資金調達の方法、マーケティングや顧客獲得の手法などです。イノベーションコースは、アイデアとプロトタイプの作成、テスト、顧客ヒアリング、デザイン・シンキングをベースに教えています。

私の講義は一方通行的なものではなく、想定したプロジェクトごとにグループワークを行っていくのが特徴です。特に注意しているのは、グーグルが発表したことで広く認識されるようになった「心理的安全性(psychological safety)」ですね。チームが「遠慮のない発言をしても、対人関係が破綻したり嫌われたりすることがない安全な場所」であることをメンバー間で共有し、学生の誰もが自由に反対意見を言えるようにしています。反対意見を促すために、あえて学生を反対役に立たせ、対立する意見をどうまとめていくかを実践させたりしています。そもそも一方通行の講義であれば、オンラインに優良なコンテンツがたくさんありますよね。しかし大学というのは、それをアクションにつなげて学ぶ場(Action Based Learning)なのです。そこでは、講師には知識よりも、グループワークをいかにリードしていくかといったコーチの役割が求められています。

多様性も重要なポイントです。例えば、グループ内の大多数が男性だったとしても、彼らの意見だけが通るのではなく、女性の意見も尊重するようリードする必要があります。また、グループプロジェクトで意見が言えない、というような問題があれば、生徒間でアンケートをする仕組みも取り入れています。大学や先生ではなく、あくまで学生主体で対策を考えるということですね。卒業後も卒業生のネットワークがあって互いに助け合っていますし、卒業生が参加できるイノベーションクラスも大学が用意しています。

ただ、アメリカの大学の問題は、授業料が高いことで、しかも多くの親は授業料をサポートしないということです。そのため学生は多額のローンを背負っていて、卒業後すぐに起業の道を歩むことができず、やむなく企業に就職するという状況が多々あります。ただ、そのような環境でも、週末に起業の準備に取り組んでいる人はいるのですが。

起業というと、日本では特別な人がするものというイメージがあります。アメリカでは、ビジネススクールで学ぶのはどのような人たちなのでしょうか?

起業家というと、テスラ社のイーロン・マスクやメタ(旧フェイスブック)社のマーク・ザッカーバーグがメディアによく取り上げられるので、特殊な能力をもった人しか起業はできないと思われがちですが、それは間違いです。起業したいという思いは、すべての人の心の中にあるものです。普段、生活していても何かを変えたいと思うことがあると思いますが、起業はその延長上にあるスキルであり、学んで身につけることができるものなのです。起業家というと、テスラ社のイーロン・マスクやメタ(旧フェイスブック)社のマーク・ザッカーバーグがメディアによく取り上げられるので、特殊な能力をもった人しか起業はできないと思われがちですが、それは間違いです。起業したいという思いは、すべての人の心の中にあるものです。普段、生活していても何かを変えたいと思うことがあると思いますが、起業はその延長上にあるスキルであり、学んで身につけることができるものなのです。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、教える側、あるいは学生側に変化はありましたか?

Zoomを使うというような、ツールや手法の変化はありましたが、教育内容の本質は変わっていません。実はコロナ禍にあって、学生の授業への意欲は逆に向上しているのです。通常、アメリカの学生は学外の活動――スポーツや文化活動、社会貢献、アルバイトなど――で忙しいのですが、コロナ禍でこれらの活動がなくなり、勉強に費やす時間が増えたのかもしれません。また、教室では大勢の前で意見を述べることが難しかった学生も、オンラインだと発言できるようになり、議論が活発化したということもありました。

最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

デザイン・シンキングでは何度もアイデアを出し、テストと修正を繰り返していきます。大切なのは失敗をして学ぶことであり、失敗を恐れるとそれを身につけることができません。失敗に対する自分の考え方を変えること、まずはそこから始めてみましょう。

Photo courtesy of/provided by the Zell Lurie Institute at Michigan Ross.

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